
伊藤秀人展 「青瓷 釉の力」
東京:2018.04.27(Fri)~06.24(Sun)
展覧会詳細
伊藤秀人氏は岐阜県多治見市出身、多治見市陶磁器意匠研究所にて学んだ後、開窯して20 余年になります。独特のゆらぎのあるうつわなどの作品を制作し、2013 年パラミタ陶芸大賞展大賞などを受賞してきました。近年は青瓷による作品を制作し、2017 年には岐阜県伝統文化継承功績者顕彰(白磁、青瓷、練彩技術の保存・伝承)を受けています。
伊藤氏が学ぶ中国青瓷を代表する北宋時代の汝窯や南宋官窯は、皇帝のために誕生したやきもので、今日も世界の至宝と言われます。日本で本格的に青瓷が焼成されたのは江戸時代からですが、明治時代以降、日本の趣味人が再び宋時代の青瓷に憧れを示すと、その影響から、多くの作家が南宋官窯を目指し青瓷に挑戦します。その完成度と独創性は非常に高く、現代陶芸作家も独自の青瓷を制作しています。
伊藤氏もまた独自の美しい曲線とフォルムからなる造形性に、青瓷の釉そのものが持つ力を生かし、古典と現代を繋ぐ試みを行っています。今展の作品は深い青味を帯び、*氷裂文にいたる美しい貫入に覆われています。重力を忘れたように広がるかたち、古の面影を感じさせる肌合いに、時空を超えた美のかたちをご覧頂けます。
*氷裂文・・・釉薬層の奥深く複雑に貫入が入り、氷を重ねたような光を纏う
伊藤秀人展 「青瓷 釉の力」 に寄せて
伊藤秀人は、これまで磁器の練り込み作品や白瓷(はくじ)に取り組んできたが、最近では青瓷(せいじ)を中心に作品を発表している。一口に青瓷といっても、その釉色は時代や窯、作る人によって異なる。中国陶瓷を例に挙げるならば、越州窯は朽葉(くちば)色、耀州窯はオリーブグリーン、汝窯(じょよう)は淡い水色、日本人に最も親しみのある龍泉窯は淡く澄んだ青緑色である。伊藤が学んでいる中国・宋時代の汝窯や南宋官窯(なんそうかんよう)は皇帝のために作られたやきものであり、なかでも汝窯の釉色は「雨過天青」といわれ、中国が最高至上の神とする天の青色である。
「脈々と受け継がれるやきものの歴史、それを作り上げた先人たちに敬意を以て臨(いど)みたい。やきものにしか表現しえない美があり、私はそれを白磁の線、練り込みの表情で探っているのですが、釉そのものが示す力にもひかれています」とは、現在の青瓷への挑戦を予測させる伊藤の言葉である。
伊藤は、初期には林檎や花弁、巻貝といった自然物を造形の中に取り込んだ作品を得意としていたが、汝窯や南宋官窯の青瓷、定窯の白瓷といった宋時代の陶瓷器に学び、古典を自らの拠り所としながらも、その本質を自らの感性で捉え、現代を表現している。先の言葉にある「釉そのものが示す力」とは、青瓷の色は釉薬を通して見える胎土によって質感や品格が微妙に変わるという、青磁の本質を捉えたものでもある。そうした伊藤の制作姿勢が評価されて、2017年度日本陶磁協会賞に選ばれた。
「自分の好きなやきものとは何だったのか? それは『今と自分』だけでは語れない、時代を通り抜けた現代に至るやきものたちでした。そこには品格が備わっており、これは古典と向き合うことでしか学べない気がしています。そして自分は今を生きている。自然の中に見える美しきもの、心が震える感動を現代のやきものとして取り出したいのです」と語り、「内なるものを出さずに終われない、それが表現の本質ではないでしょうか」と問う、伊藤の脳裏に浮かんだのが「古典の品格と現代の美を併せ持つやきもの」という言葉であった。この言葉は、伊藤の作品をよく表している。
今展には、そうした古典から一歩抜け出た、伊藤独自の美しい曲線とフォルムからなる大鉢3点、茶碗1点が展示される。その造形と釉の力が、どんな空気を醸し出し、どんな空間に仕上げてくれるか、とても愉しみである。
森 孝一(美術評論家・日本陶磁協会常任理事)
- 2018年5月 会場風景
撮影:荻沼秀和 - 2018年5月 会場風景
撮影:荻沼秀和 - 2018年5月 会場風景
撮影:荻沼秀和
会期 | 2018年4月27日(金)~6月24日(日) |
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開館時間 | 10:00~18:00 |
休館日 | 水曜日、2018年5月27日(日) |
観覧料 | 無料 |
作家略歴
1971 | 岐阜県多治見市に生まれる |
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1991 | 多治見市陶磁器意匠研究所修了 |
1995 | テーブルウェアフェスティバル 優秀賞 |
1996 | 岐阜県土岐市に開窯 |
高岡クラフト展 審査員特別賞 | |
1998 | 国際陶磁器展美濃 '98 銀賞 |
2002 | 国際陶磁器展美濃 ’02 審査員特別賞(深見陶治 氏) |
2004 | MINO CERAMICS NOW 2004 ('12 岐阜県現代陶芸美術館) |
2007 | 第54回日本伝統工芸展 入選('10-12) |
2010 | 個展(’11-’17)(しぶや黒田陶苑/東京) |
2011 | 国際陶磁器展美濃'11 審査員特別賞(鈴木藏 氏) |
「白の時代」(益子陶芸美術館/栃木) | |
「東海現代陶芸 思考する新世代展」(愛知県陶磁美術館 ) | |
2012 | 利川陶磁器フェスティバル 日中韓ワークショップ参加(京畿道利川市、韓国) |
2013 | 第8回パラミタ陶芸大賞展 大賞 |
「現代の名碗」 (菊池寛実記念 智美術館/東京) | |
2014 | 個展(日本橋三越本店/東京) |
Japanese Ceramics for the Twenty-first Century (ウォルターズ美術館/U.S.) | |
第61回日本伝統工芸展 宮内庁買上 | |
第28回東濃信用金庫 美濃陶芸作品永久保存事業に選定 | |
2015 | 「本色共感:東アジア伝統陶芸」(京畿陶磁博物館/ 京畿道広州市、韓国) |
2016 | Japanese Water Jars for the Tea Ceremony(Joan B Mirviss Ltd/N.Y.) |
個展(アートフェア東京 しぶや黒田陶苑/東京) | |
「近代工芸と茶の湯Ⅱ」(東京国立近代美術館工芸館) | |
中日韓、青瓷シンポジウム参加(浙江海洋大学/浙江省舟山市、中国) | |
2017 | 「現代の茶陶」(茨城県陶芸美術館) |
平成28年度 岐阜県伝統文化継承功績者顕彰(白磁、青瓷、練彩 技術の保存・伝承) | |
「伊藤秀人 青瓷 碗 盃」(画廊 光芳堂/岐阜) | |
2018 | 「青の時代」(益子陶芸美術館/栃木) |
2017年度日本陶磁協会賞 | |
パブリックコレクション | 国際交流基金、岐阜県現代陶芸美術館、樂翠亭美術館、パラミタミュージアム、チェゼン美術館(アメリカ)、とうしん美濃陶芸美術館、美濃焼ミュージアム、ボストン美術館(U.S.)、シンシナティ美術館(U.S.)、南宋官窯博物館(杭州、中国) |