展覧会/イベント

LIXILギャラリー企画「クリエイションの未来展」について
LIXILギャラリー企画「クリエイションの未来展」では、日本の建築・美術界を牽引する4人のクリエイター、清水敏男(アートディレクター)、宮田亮平(金工作家)、伊東豊雄(建築家)、隈研吾(建築家)を監修者に迎え、独自のテーマで現在進行形の考えを具現化した展覧会を開催しています。

「クリエイションの未来展」の第 21 回目となる今回は、金工家の宮田亮平氏監修による「九つの音色―Reflection―」を開催します。本展では、監修者である宮田亮平氏と、日本藝術院受賞者や重要無形文化財保持者を含む、現代を代表する日本美術、工芸作家合計9名による、陶藝、木工藝、漆藝、書、日本画、硝子工藝、金工の作品9点を展示します。


展覧会の見どころ
「九つの音色」は2000年にスタートした9人の美術家によるグループです。9人は陶藝、木工藝、漆藝、書、日本画、硝子工藝、金工とそれぞれの分野は異なりますが、共通して藝術家を父にもつ家庭に生まれ育ちました。「九つの音色」は2009年までに5回の展覧会を開催して終了しましたが、今年10年の時を経て、新たに6回目の展覧会を開催する運びとなりました。
この10年の間に9人の作家は、自らがかつての師の立場となり、日本藝術院受賞者や重要無形文化財保持者となって、日本の美術工藝界を牽引しています。
近年、日本工藝美術の繊細な美と独自の技法は国内外で高い人気を得ています。今展では現代日本工藝美術の最前線にある九つの作品をご覧頂けます。


監修者からのコメント
10
年ぶりの響きあい「九つの音色-Reflection-」

《一つ》異分野を超えて
私の監修による「クリエイションの未来展」では、2018年に鍛金、鋳金、彫金といった技法や流派を超えた金工作家十一人の作品を披露した「金工のかたりべ」を企画しました。そして前回の2019年は、陶藝、染織、漆藝、金工、木竹工、截金など分野を超えた工藝作家十二人の作品を展示した「『工藝』とは...」でした。

《二つ》原点となった運動体
異なる領域の藝術家がその垣根を超えて発信する試みの原点としてあったのは、2000年に立ち上げた美術運動体「九つの音色」でした。
  陶藝、木工、漆藝、書、日本画、硝子工藝、金工。同時代に生きる表現分野も違えば個性も感性も異なる九人の美術家が同じ舞台に立って作品を発表する、そうすることで創作に向けた新たな一歩を踏み出し、日本独自の藝術のあり方を探ることはできないか-。結成に際して、そんな野心を静かな高揚とともに抱いていたように思います。  
あらかじめ決まっていたことと言えば、十年という年限を設けて、隔年で五回の展覧会を開くということだけでした。

《三つ》七光りという共通点
九人の年齢には十六年の開きがありましたが、いずれも藝術家の父を持つ家庭に育ったという共通の体験がありました。師匠が父親であったがゆえに、その背を見つめる視線には敬愛や信頼と同時に依存や反発といった複雑な思いがそれぞれにあったはずです。
2001年、東京・三越で開催した第一回の展覧会のテーマは、あえて「父の背を見て」と銘打ちました。

《四つ》伝統を現代に生かす
九人は父親が創作の糧としてきた日本の美と伝統を受け継ぎ、背負ってもいます。伝統的な技法を用いながらも独自の創意を凝らし、新たな伝統を生み出していかなければなりません。日本の美と伝統を再び現代に生かすべく、第二回の展覧会のテーマは「再美日本(ふたたびにっぽん)」を掲げました。
一過性で終わりがちな展覧会の成果をより広く深く伝えるために、展覧会ごとに刊行物を出版してきたことも、この会の特徴です。創作活動や時代の動きに対する九人の理念や信条を言葉として残すべく、随筆や座談会の記録も収録しました。

《五つ》近くて異なる国  
美しい日本の心とかたちを今に伝えること、それは常に創作の礎となった日本文化の伝統を振り返ることでもあります。日本文化の源流をたずねるために、私達の目はおのずとアジアに向けられました。
韓国と中国と日本で「藝術文化振興 三国共同会議」を創設し、2004年から2006年にかけて、ソウル、東京、北京で三カ国における異分野の藝術家九人ずつの作品が勢ぞろいする展覧会と講演会を開催する文化交流事業を展開したのです。
すなわち、第三回の展覧会のテーマは「藝術の対話・中国、韓国、そして日本」です。この取り組みは、中国と韓国の学生たちを訪ねて三国間の藝術文化に対する意識調査を実施するなど、東洋美の再興を期す活動に発展することになりました。

《六つ》地域と時代を超えて
三国共同会議であらためて認識したのが、伝え合うことの大切さでした。藝術・文化は伝え合うことで成熟していきます。第四回目の展覧会のテーマは「つたえあい」でした。この運動も過去から受け継いだものを未来へ伝え、アジアへ、海外へと地域を超えて同時代を生きる人たちに伝えていくものです。
そして、最終回のテーマは「祈りの継承」です。夢と希望、自然と生命、美と心。私達が共通して追い求めてきたものは、最終的に「祈り」という言葉で表現できるのかもしれません。

《七つ》十年間の定点観測  
結成から十年、個展でも公募展でもない異分野を横断するグループ展を隔年で開く取り組みは、予想を超える果実をもたらしました。
それまで知らなかった技法や意匠に触れることによる創作上の刺激にとどまらず、それは藝術に対する考え方や生き方を互いに学ぶ場でもありました。二年の時を経て示す作品と対話を通して、表現における新たな展開だけではなく、それぞれの生き方の変化を問い直し、自らの立ち位置を俯瞰して見定める機会にもなりました。
その結果、九人の美術家が抱く問題意識は、個々が抱えるテーマを超えて、自らの分野における展望にまで広がっていったように思います。

《八つ》それぞれの今
あれからさらに十年の歳月が流れ、九人はどこかでつながりながら、それぞれの進化と飛躍を経て今に至っています。
十年という時のなかで私達はどのように変わり、あるいは変わらなかったのか。それを互いに見極め、それぞれの十年間をあらためて確認する場を設けたい。そして、そこから新たな十年に向かって歩みを進めていきたい。今回の企画「九つの音色-Reflection-」には、そうした思いを込めています。

《九つ》新たな出会いの場に  
展覧会は新しい世紀に踏み出した日本の文化藝術の軌跡をおのずと示しているはずです。また、九人の新たな鑑賞者や支持者の方々の出会いとつながりの場になることも思い描いています。
日本の美と心の新たなかたちを探求する九人の美術家が再び寄りつどって、どのような響きを織りなすか。
様々な音色に耳を傾けるように、どうぞ九つの音色を心ゆくまでご鑑賞ください。

宮田亮平 (金工家/東京藝術大学名誉教授)

  • 大樋年雄(陶藝)1958年 石川県金沢市生まれ
  • 佐伯守美(陶藝) 1949年 栃木県宇都宮市生まれ
  • 須田賢司(木工藝) 1954年 東京都北区生まれ
  • 田口義明(漆藝)1958年 東京都練馬区生まれ
  • 中島宗晧(書)1960年 京都府京都市生まれ
  • 福王寺一彦(日本画)1955年 東京都三鷹市生まれ
  • 藤田潤(硝子工藝)1951年 東京都江戸川区生まれ
  • 三田村有純 (漆藝)1949年 東京都杉並区生まれ
  • 宮田亮平(金工) 1945年 新潟県佐渡市生まれ
  • 大樋年雄(陶藝)1958年 石川県金沢市生まれ
    ≪発見した小惑星 麗凛≫ W 50.5×D 47.5×H43.0㎝
  • 佐伯守美(陶藝) 1949年 栃木県宇都宮市生まれ
    ≪象嵌泥彩樹林文花瓶≫ W18.3×D13.3×H37.0㎝
  • 須田賢司(木工藝) 1954年 東京都北区生まれ
    ≪栃と黒柿のリコーダーのための箱一対「星彩」≫ W40.0×D 5.5×H5.0㎝ 重要無形文化財保持者(木工藝)
  • 田口義明(漆藝)1958年 東京都練馬区生まれ
    ≪乾漆青貝蒔絵香器≫ W 42.9×D 24.1×H12.3㎝
  • 中島宗晧(書)1960年 京都府京都市生まれ
    ≪無≫ W41.2×D80.0×H41.2㎝
  • 福王寺一彦(日本画)1955年 東京都三鷹市生まれ
    ≪月華舞う蝶≫ ⓒ2020FUKUOJIKazuhikoJASPAR W130×H130㎝
  • 藤田潤(硝子工藝)1951年 東京都江戸川区生まれ
    ≪風なびく≫ W 33.0×D 25.5×H 56.0㎝
  • 三田村有純 (漆藝)1949年 東京都杉並区生まれ
    ≪黒い月 輝く≫ W60.0×D60.0×H30.0㎝
  • 宮田亮平(金工) 1945年 新潟県佐渡市生まれ
    ≪シュプリンゲン20-0 ≫ W100×D18.0×H43.0cm
会期 2020年1月27日(月)~3月24日(火)
開館時間 10:00~18:00
休館日 水曜日、2020年2月23日(日)
入場料 無料

監修者について

宮田亮平

略歴
1945年 新潟県佐渡市に生まれる
1972年 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程鍛金専攻修了
1997年 東京藝術大学教授
2005年 東京藝術大学学長(~2016年3月)
2012年 第68回日本藝術院賞受賞
2016年 文化庁長官(4月~)
東京藝術大学名誉教授、東京五輪エンブレム・マスコット委員会座長
日本相撲協会「横綱審議委員会」委員 他
  • 撮影:白石ちえこ
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