
組紐-ジグザグのマジック-
大阪:2020.04.02(Thu)~05.19(Tue)
新型コロナウイルス感染拡大防止のため3月3日より臨時休館としておりましたが、この度の緊急事態宣言延長に伴い、本展覧会を中止とさせていただきました。
3本以上の糸束を斜めに交差させ組み上げてつくる「組紐」。組むことで優れた伸縮性と安定した強度がうまれ、加えて複雑で色彩豊かな模様もつくることができます。日本では古くから宗教、儀礼などの大切な場面で用いられ、時代が下るとともに活用範囲は広がり、それに合わせて技術やデザインも開発されてきました。本展では、組紐の古今の伝統美と驚きの技を約140点の実資料で紹介し、秘めたる優れた特性と多様性をひも解きます。
組紐とは、3本以上の糸束を交互に交差させ組み上げてつくる紐のことを言い、すでに縄文時代にはあったことが確認されています。その特長は優れた伸縮性や安定した強度に加え、組み方により様々な断面形状や色柄も複雑で美しい模様を考案できることです。それゆえ儀礼用具の緒や飾り、甲冑の小札(こざね)を綴じ束ねる威(おどし)など、古くから社寺仏閣、武具、装束などと深く関わり発展してきました。その伝統を引き継ぐ帯締めを含め、現代では組紐の特性を活かした暮らしの日用品や工業製品まで活用範囲は広がりをみせています。 身近にありながらあらためて組紐の世界に触れてみると、その高い機能と意匠性に驚かされることでしょう。 本展では、日本における長い組紐の歴史のうち、ひとつの発展期となった室町から江戸、次に一般に普及した明治以降、そして応用の時代となった近年から、それぞれ特長ある事例を実資料約140点でご紹介します。例えば、武家社会における鎧の一部や刀の拵(こしら)えなど武具類の組紐、庶民が身に着けるようになった着物文化の中の帯締めや羽織紐の数々。また現代では組紐を補強材とする樹脂との複合材料を用いた義足のソケットなど、組紐の世界を幅広くご覧いただきます。その他、本来は見ることができない伊勢神宮の唐組平緒を手がけた匠の仕事や世界の組紐の一例として日本同様に高度に発達したアンデスの組紐も紹介します。 本展を通して、複雑で奥深い組紐の魅力を存分に味わっていただければ幸いです。
●主な展示と見どころ
<組紐の発展>
日本の組紐技術が大きく発展したのは、平安・鎌倉時代から江戸にかけ武具の要として用いられてきたのも一因です。中でも甲冑の小札(こざね)を綴じ束ねる組紐(威)の役割は大きく、鎧に色と自在性を与える役割がありました。また日本刀の柄巻(つかまき)や鞘(さや)に取り付ける下緒(さげお)にも組紐が用いられており、装備を際立たせる装飾性が伺えます。ここでは、室町期の貴重な草摺(くさずり)の実物や鎧威毛図(写本)、また非常に珍しい江戸時代の柄巻見本など約40点を展示します。
<組紐の普及>
明治時代に入ると、廃刀令が出たため、これまで武具の組紐を手がけていた職人たちは、着物の帯締めや羽織紐に活路を見出し、これらが一般に普及していきました。着物文化の華やぎに合わせ、色合いや柄に独自の工夫が施され多種多様なものが生まれます。ここでは、東京組紐卸協同組合で理事を務めた土山(つちやま)弥太郎氏(1918-2003)が収集した、明治から昭和初期の組紐関連資料1300点以上から一部を紹介します。帯締めや羽織紐などが台紙に彩り美しく整然と並べ貼られ、見事な組紐標本と言えます。その台紙状のものを21点展示します。様々な手業が生み出す豊かな意匠の世界をご堪能ください。
<組紐の匠>
組紐職人で唯一の人間国宝、深見重助(ふかみじゅうすけ)氏(1885-1974)は、代々有職(ゆうそく)糸組師として宮中で扱うあらゆる組紐制作を担う家の13代目です。高度な技が必要とされる、式年遷宮(伊勢神宮)の唐組平緒も制作していました。深見氏は晩年、平安期の巻緒や神社の宝物の組紐の残欠から当時の組み方を解読し再現した試作品も数多く残しました。ここでは昭和48年に伊勢神宮のために調製した平緒の見本や平家納経の巻緒の残欠と復元、明治期の組み方控え帳などを披露します。匠による繊細で格調高い仕事を鑑賞できる滅多にない機会です。
<組紐の応用>
現在、組紐はまっすぐだったものから円形螺旋や角型螺旋、ジグザグなど様々な形態が生まれ美と技の革新が進んでいます。一方、工芸以外の新たな分野でも組紐技術が活用されています。1965年にアメリカ人初の宇宙飛行士が船外活動で装着した命綱も組紐でした。また、義足用のカーボンストッキネットと呼ばれる炭素繊維の筒状の組紐を樹脂で固めたソケットは、薄くて軽く耐久性に優れているためパラリンピック選手の義足などにも活用されています。
<海外の事例から アンデスの組紐>
かつての南米アンデス地域においても、日本と同様に高度に発達した組紐文化が見られます。ここでは、アンデスのナスカ文化(紀元前後-800年)頃の頭帯やベルトとして使われた組紐や武器として用いる投石紐が登場します。日本とは異なる組紐の用途やデザインにご注目ください。
- 武蔵御嶽神社 赤糸威大鎧 組紐の試作。
制作:有職糸組師13代・深見重助/所蔵:安達くみひも館/撮影:佐治康生 - 白糸威褄取鎧(室町時代初期/伝京都鞍馬寺旧蔵)。後世に脇楯に仕立てられているが、本来は大鎧の射向(左側)の草摺。
所蔵:寺本靖/撮影:佐治康生 - 土山弥太郎氏が収集したコレクションより、大正から昭和初期の羽織紐一覧。
所蔵:東京農工大学科学博物館/撮影:佐治康生 - 第六十回(昭和48年)神宮御式年遷宮御用唐組御平緒見本。
所蔵:安達くみひも館/撮影:佐治康生 - ナスカ文化(紀元前後-800年)頃の平組紐で頭帯として使われた。
所蔵:多田牧子/撮影:佐治康生
「組紐-ジグザグのマジック」会場映像
会期 | 2020年4月2日(木)~5月19日(火) |
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*大阪会場のみの開催となります。 | |
開館時間 | 10:00~17:00 |
休館日 | 水曜日(祝日は開館) |
入場料 | 無料 |
企画 | LIXILギャラリー企画委員会 |
制作 | 株式会社LIXIL |
監修 | 多田牧子(組紐・組物学会理事) |
協力 | 安達くみひも館、飯山隆司、京都工芸繊維大学美術工芸資料館、株式会社澤村義肢製作所、寺本靖、東京農工大学科学博物館、結城和子 |
展示デザイン | +建築設計 田代朋彦 |
展示グラフィック | Kobito inc. |
- 2020年大阪会場 会場入り口。
- 「組紐いろは」組紐の定義から、出来るまでの工程や種類を解説。
- 「武具の組紐」
- 左は、室町時代初期頃の「白糸妻取威大鎧(しろいとつまとりおどしおおよろい) 草摺(くさずり)」。右は、江戸中期『鎧威色目画巻(よろいおどしいろめがかん』。有識者や学者による古鎧の研究成果として図譜や出版物に残され、時代の流行も見て取れる。
- 日本刀の柄巻(つかまき)や鞘(さや)に取り付ける下緒(さげお)にも組紐が用いられており、装備への装飾性が伺える。
- ジグザグの会場デザイン。
- 「着物文化の組紐」土山コレクション
- 土山弥太郎氏(1918-2003)が収集した、明治から昭和初期の帯締めや羽織紐。台紙に彩り美しく整然と並べ貼られ、見事な組紐標本と言える。
- 「匠の仕事」
- 組紐職人で唯一の人間国宝、深見重助(ふかみじゅうすけ)氏(1885-1974)。匠による繊細で格調高い仕事。
- 組み方見本と復元の仕事。
- 「現代の組紐」
- まっすぐだったものから円形螺旋や角型螺旋、ジグザグなど様々な形態が生まれ美と技の革新が進んでいる。
- 2点とも制作:多田牧子
- 「アンデスの組紐」
- 高度に発達したアンデスの組紐。日本とは異なる用途やデザインが見られる。
- 「組紐の応用」
- 会場模型
制作・撮影:+建築設計 田代朋彦