古来よりその輝きが月光にも喩えられる銀。銀は普遍的な素材として、また強い反射が邪悪なものをはね返す金属として尊ばれ、装身具に多用されてきた。とりわけ数百の民族が暮らすアジアでは、装身具は自身を飾るという目的以外に、民族のアイデンティティを示す重要なアイテムとして人々の暮らしの中で受け継がれてきた。それ故に存在感のある大胆な造形や手の込んだ細工など、ヨーロッパ以上に種類も豊富で固有なデザインが存在する。また装身具に込められた様々な思いをひも解くと、生命と直結した聖なるものとしての意義や身体装飾への情熱までも知ることができる。
本書では、アジアの近・現代に見られる装身具のうち特徴的な約100点を披露（日本宝飾クラフト学院（東京）コレクション）。それぞれの形態と文様に表れた深意を探り、銀の歴史や加工などにも触れながらビジュアル豊富に展開する。
地域別装身具の導入としては、様々に装身具を纏う人々を古写真と現代の写真を交えて紹介。幾重にも重ねる独特の着用法や民族衣装との調和など、地域文化を知る貴重な資料を掲載する。そして本書最大の見どころとして、東アジア、東南アジア、南アジア、中央アジア、西アジアにおける代表的な装身具を取り上げ、細部まで捉えた図版で特徴を浮き彫りにする。各地の風土などの民俗学的視点でフィールドワークを行った研究者らによるコラムが、この図版構成にストーリーを添える。最終項はさらに視野を広げ、アジアの装身具とヨーロッパとの接点の考察で締めくくる。
■目次
銀を纏う人々 露木宏
銀の履歴書 村上隆
銀細工の技法 飯野一郎
□アジアの装身具紀行
アジアの風土と装身具 道明三保子
装身具MAP
東アジア｜手技の継承──中国・ミャオ族の装身具 原典生
東南アジア｜舞踊にみる東南アジアの多様性──華やかな装飾の背景 芳賀日向
お守りの装身具
日常生活の装身具
南アジア｜生活に欠かせない存在──ネパール・ブータンの装身具 向後紀代美
中央アジア｜人生で身に着けるもの──中央アジアの装身具 加藤定子
西アジア｜幸福のアラビアに見る意匠──イエメンの装身具 向後紀代美
銀の広がり──発信地としての西アジア 露木宏
月光を纏う──祈りと命の装身具 鶴岡真弓