タイル博物館ロビーの床とアーチについて

博物館のロビーの床には、1辺が5mの正方形のスペースに象嵌タイルを含む全10色、全15形状、計46種類約2000枚のタイルが模様張りになっています。

床タイルの中心になるのは、デザイン化された草花の模様を象嵌したタイルで、対角線方向に広がりを持ち、正方形とその半分の三角形が平面を構成しています。縁飾りとしてボーダー形状のものが、要所要所を帯状に取り巻いています。このデザインは、神戸にある洋館旧E.H.ハンター邸(現在、王子動物園の敷地内に移築されている)の玄関の床のタイル張りを基にしています。

旧E.H.ハンター邸
旧E.H.ハンター邸

建物の西南の角にある玄関は2m四方と狭く、そのままを再現するには博物館の床は広すぎるので、博物館での再現に際して実寸の約1.4倍の大きさに拡大し、さらによく似たパターンを継ぎ足して広い模様張り面に仕上げてあります。主体となる市松模様の正方形タイルの大きさは1辺142mm。46種類のタイルがきちんとそれぞれの寸法を与えられて、この5mの正方形の中に見事に嵌まり込んでいます。現地の写真をもとに、方眼紙に隣同士の関係を確認しながら中心部からタイル配置図を書いていくと、当然といえば当然ですが、中心の正方形の寸法を基準に√2の関係でつながっていきます。まさに幾何学模様で、自由に選べる寸法はどこにもありません。練りこんだ無釉の床タイルが張られました。壁に使われているような凹凸のある装飾タイルではなく、平面性を持ったタイルが床には最も好ましいと考えられており、凹凸のないプレインな表面を持つタイルで床を飾ることが英国の著名な建築家ピュージンの信念でした。彼は塗装のように退色することのない床材として、着色した粘土を原料にした床タイルを模様張りにし、さらにデザインした図柄が摩耗によっても消滅することがないよう象嵌の手法で床タイルの装飾性を永久のものにしたのです。

象嵌タイルは、模様となる部分が約2~3mmの彫り込みとなっていることから、耐久性に優れ中世の頃からハンドメイドによる湿式成形法(練り土を使う)で製作されていましたが、1850年前後には乾式(粉末原料を使う)の機械成形法によるタイル製作技術が発達し、ミントン社を中心に乾式成形による象嵌タイルも製作されました。その後湿式機械成形による象嵌も考案されました。二階常設展示のイギリスのコーナーにある象嵌タイルを、ご覧になればわかりますが、湿式成形のタイルは概して肉厚で、乾式成形の方は薄く仕上がっています。いずれも象嵌とは思えないほど正確無比な象嵌が施されています。

当館のロビーに施工してあるタイルは、顔料を練りこんだ磁器質タイルで、施工は目地幅3mmと寸法許容差がほとんどないため、切断加工によって必要な寸法精度を確保しています。象嵌タイルは、オリジナルのものと同様乾式成形法によりプレス成形されており、最多色のものでベース色を含めて3色象嵌になっています。

床タイルの上には高さ約8mの尖がり屋根の形をしたタイル張りのアーチがあります。メインに使われている色がトルコ石ブルーで、形も六角形をメインに正方形、長方形、ボーダーなどがあり、これらのタイルがアーチを形づくっていることから、イスラーム教のモスクを連想する方が多いと思います。確かにモスク的要素もたくさんありますが、そのものを再現したわけではありません。タイルの色は、トルコ石ブルーのほかに、ナマコ釉の藍色、織部釉の緑色、銅の還元赤色(牛血色)、鉄釉の黄色、水金とあり、無国籍のオリジナルデザインとなっています。現在、アース・カラーと呼ばれる地味な色合いのタイルが多い中で、光沢のあるトルコ石ブルーのタイルは強烈な印象を与えると思います。ピラミッドの地下通廊の壁に張ってあったエジプトファイアンスタイルを模したトルコ石ブルーのタイルは、実際の施工状態を再現してあり、目地は芦の葉を編んだ紐の部分を現地と同じようにモルタルで二重の覆輪目地で表現しています。

アーチのタイルは、湿式の手づくりの特徴が出ていて平面でありながら稜線部分を面取りして丸みを持った仕上がりとなっていて、色の自然なバラツキもあり全体の雰囲気を軟らかくしています。床タイルの直線的で硬質な印象と好対照をなしています。

(主任学芸員 竹多 格)