INAXライブミュージアム 世界のタイル博物館 INAX TILE MUSEUM

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ヴィクトリアン・タイルの図柄の特徴

「ヴィクトリアン・タイル」として親しまれている近代イギリスのタイルは、機械で大量生産され、そのデザインも非常に豊富です。今回は、これらイギリスの装飾タイルを取り上げ、大量生産ならではの図柄の特徴について考えてみたいと思います。



近代イギリスのタイルのルーツは、オランダのタイル、スペインのタイル、さらに、溯ればイスラームのタイルまでそのルーツを求めることができます。いずれの時代の壁タイルにも、図柄がしっかり描き込まれ、タイルは建物の壁に図柄を描くための、焼きもの製の巨大なキャンバスであるということができるほどです。そして、タイルを張り詰めたときの図柄の見え方としては、同じ柄が上下左右に単独に広がったもの、図柄が上下左右につながって一体感のある図柄になるもの、図柄の向きを考慮して並べてより大きな図柄を浮かび上がらせるものなどがあります。また、一枚のタイルにひとつのテーマを描くだけでなく、複数のタイルにわたって一つのテーマを描く壮大な「組絵タイル」も昔からつくられてきました。中近東では、このような組絵タイルも多いのですが、中には幾何学模様やアラベスク(アラビア風唐草模様)など反復によるやや単調な図柄も多く、量産型の近代イギリスの図柄と共通する特性を持っているとも言えます。



ヴィクトリアン・タイルの特性はやはり、自由度のある手描きから転写紙などによる大量生産の絵付けに代わった後も、オランダの組絵タイルのように複数枚並べたタイルによって、より大きな図柄を表現するという考え方を重要視した点にあるのではないかと思います。大量生産時代になると、同じ柄のタイルを大量につくることが得意になります。その結果、単に一枚のタイルで図柄が完結したタイルが、壁一面に並んでいるだけでは面白くないし、絵画というには小さすぎるということなのでしょう。そこで、機械生産が得意な同じ柄のタイルでありながら、なんとか複数枚並べたときに広がりのある大きな図柄が浮かび上がらせることはできないだろうかと、トリッキーなタイルの図柄を考案したのです。


近代イギリスのタイルの図柄を次のように単独完結型と連結型の2タイプに大別することができます。以下にそれぞれの対応における図柄の工夫を見ていきましょう。


<隣り合うタイルに接点となる柄を持たないタイプ>
これは、一枚のタイルに描かれる図柄がタイルの外周まで達することはなく、内側で図柄を完結させたタイプ。オランダのタイルの大部分はこのタイプで、船や動物、人物、風景などがタイルの中央に描かれています。この場合、柄に方向性があるのでタイルを張るときは、向きに注意して張らなければなりません。ヴィクトリアン・タイルを代表する輪郭線を盛上げる加飾手法のチューブライニング・タイルやレリーフ・タイルには、アール・ヌーボー調の花柄など個性の強い図柄のものが多いためか、敢えて連続模様を狙わず、その主題を際立たせるために単独完結型にしているようです。このようなタイプは、幾つかの単独完結型の図柄を並べたり、無地のタイルを張り込んだ中にワンポイントという形で挿入したりして効果的に使われます。(写真1)







(写真1) 単独完結型

(写真2) 連続反復型


<隣り合うタイルに接点となる柄を持つタイプ>
これは、一枚のタイルに描かれる図柄がタイルの外周まで達するか、或いは内側には独立完結した図柄があり、その周辺に外周まで達する半円や直線の図柄を持ち、その図柄を介して隣のタイルとつながりを持つタイプです。簡単な例は、その接点が各辺の中央や四隅にある場合です。この場合、全体としては、隣のタイルとつながって継ぎ目のない垂直水平に伸びた網目模様や45度傾いた菱形の網目模様になります。蔓草など自然なものを使って全体に無限につなげる図柄を生み出すようにしたものもあります。また、四隅に四分円が配置してあれば、全体としてみたとき、中央に独立した図柄のほかに、タイルの四隅が集まった所には、新しく円の模様が付加されることになります。(写真2)

もう少し複雑な例では、一枚のタイルには完結した図柄の四分の一の図柄が描かれ、四枚集まると完結した図柄が浮かび上がるものです。もちろん、この場合も四枚はまったく同一の図柄です。張るときにはタイルの向きを図柄が完成するように注意する必要があります。この手法により、全体として眺めたとき完結した一単位当りの図柄の大きさは通常の四倍の大きさになります。(写真3)

最後のタイプは、かつての組絵タイルのように、タイルを張り詰めた状態で,風景や大きなうねりのある唐草模様などが浮かび上がるもので、この場合タイルの図柄は全て異なり、指定どおりの位置にそれぞれのパーツとなるタイルを張らなければなりません。(写真4)






(写真3) 四倍の大きな図柄を浮かび出すパターン

(写真4) 組絵タイル


以上、タイヴィクトリアン・タイルに使われる図柄の特性について記しましたが、機械で大量に作れることを活かしながら、多くの場合は一枚のタイルに担わせた図柄を集積してより大きな図柄をもとめようとする特徴があります。さらに、同じ図柄によるタイル張りで損なわれる自然な広がり感を補うために、細部における非対称デザインを多用するなど、タイルの図柄にこだわった当時のデザイナーの心意気が感じられます。これは同時期のモリスやモーガンなどのアーツ・アンド・クラフツ運動の流れに沿うものでもあります。





(主任学芸員 竹多 格)
          

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