INAXライブミュージアム 世界のタイル博物館 INAX TILE MUSEUM

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研究レポート


博物館ミニ体験コーナーの紹介

1階の常設展示室の奥にやきものに関するミニ体験コーナーがあります。触れて確かめて遊べる3種類の展示物を紹介します。

(1)六角形タイルの不思議
レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452〜1519)がデザインしたと伝えられている六角形のタイルが、ハンガリーのブダペストのアプライド・アート博物館にあります。体験コーナーにある六角タイルは、そのタイルをほぼ忠実に再現したものです。技術的には、スペインのマジョリカ・タイルで使われているクエルダ・セカという手法によって1枚のタイルの中に複数の色釉をお互いに交じり合うことなく塗り分けたものです。具体的には、褐色のボディーに酸化錫を含む不透明白色釉を施し、その上に油を混ぜた酸化マンガンで輪郭線を描き、輪郭線の内側に様々な色釉を施します。もともと、様々な色や形のタイルチップを組合わせて平面を作るタイル・モザイクの製作を簡便化する目的でイスラームの陶工の間で考案された手法です。

この六角タイルは、単体でも立体に見えるタイルなので、これを複数同じ向きに並べると立体の広がりを感じとることができます。イスラーム建築にある蜂の巣のように見えるスタラクタイト(鍾乳石装飾)というものがありますが、それを直線的にした見え方をします。その一部の向きを変えてやると不自然さが吹き出してきて、だまし絵の世界が楽しめるわけです。青、白、黄の3色の塗り分けによって1枚のタイルにトップライトと影の部分を意識できることから、整然と並べられたタイルの見る方向を変えることにより、見下ろす感じ、或いは見上げる感じが実感できます。 なお、この六角タイルは、2階スペインのコーナーの床に約4u張ってあります。




六角形タイル

(2) やきものの木琴
木琴は、材質が同じ木材を同じ幅にカットしたものを、長さを変えて音階に合うよう調律して音板としてならべたものです。この音の正体は、板を叩いたときの板の振動がまわりの空気を振動させて生じる音波そのもので、音の高さはその振動数で決まります。ピアノの中央付近のラの音は440Hzで、人の耳で聞き取れる音は16Hz〜20kHzと言われています。また、同じ大きさでも材質が異なれば振動の仕方が変わるので音の高さが異なります。例えば、肉厚な土鍋を叩くと低く鈍い音を発し、透けるような磁器の洋食器を叩くとかん高い音がすることを私たちは経験的に知っています。そこで、やきものの木琴では、粘土を固めて作った平板の焼く温度を変えることにより、材質的に変化をつけて音の高さを変えています。800℃〜1240℃の間でドレミの音階になるよう試行錯誤を繰り返しながらやきものの音板を作りました。(音階の精度はまだまだですが) 展示しているやきものの木琴では、ドレミの音を楽しむだけでなく、焼成温度による色の変化や収縮の度合いも確認することができます。低い温度では肌色だったものが、温度が上がるにつれて徐々に赤みが抜けて、黄色になりやがて灰色に変化していきます。焼成する前の寸法はみな同じなのに、焼成温度が高くなるにつれて焼き上がった品物の寸法は徐々に小さくなっていきます。これは、やきものを形作っている粒子同士の反応が進んで空隙(すきま)が減少し、緻密度が増すためです。材質としては、陶器質〜器質〜磁器質と変化していきます。備え付けの棒で軽く叩いてお楽しみ下さい。




やきものの木琴


(3) 星形と十文字形のタイルの組み合わせ ある決まった形のものを複数枚並べると、隙間のない平面を作ることができます。身の回りのものでは、畳、正方形や長方形のタイル、カラー舗装に使われるインターロッキングブロック、ジグゾーパズルなど単純な形の繰り返しから複雑な形の組み合わせまでいろいろあります。 イスラーム教では、偶像崇拝が禁じられているので、建築家や陶工は偶像にならない植物文、幾何文、装飾文字など(これらを総称してアラベスクという。唐草模様を特にアラベスクということもある…狭義)の研究に専念し、それらの反復によって具象物を抽象化するのに成功し、タイル・モザイク、透かし彫りの壁、絨毯などに多くの文様を残しています。

星形と十文字の組み合わせは、どちらかといえば複雑な部類に入ると思われますが、13〜14世紀頃には、このような組み合わせの壁面がイスラーム教建築に多く使われました。単体でみても星形、十文字どちらも魅力ある形であるのがまた不思議です。イスラームの文様は計算された幾何学です。同じ形のものを向きを変えてつないだり、複数の形を組み合わせながら繰り返したりと、その複雑な謎解きのような出来栄えには驚嘆させられます。その妙が魅力的です。他に例を挙げれば、蝶ネクタイの形をしたものを縦横の組み合わせたもの、ローマ字の「H」や漢字の「中」を単独で縦横に組み合わせたものなどが、スペインのアルハンブラ宮殿の壁のタイルに見られます。




星形と十文字形のタイル

(主任学芸員 竹多 格)
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