独自企画や地域との連携で、コンサートや講演会、ワークショップなど、さまざまなイベントを開催しているミュージアム。ライブ感あふれる活動をスタッフがご案内・ご報告します。
No.172 企画展「雨と生きる住まい−環境を調節する日本の知恵」 オープニングイベントを開催しました。
2014/11/10
ものづくり工房 中斎
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オープニングセミナー&内覧会
雨仕舞の知恵―寺社建築と民家づくり
建築家 安藤邦廣氏 × 杮皮葺師・檜皮葺師 原田多加司 氏
ファシリテーター 坂井基樹 氏
平成26年10月31日 pm4:00〜pm6:00
土・どろんこ館
「火」と「水」と「土」をテーマとするINAXライブミュージアム。
今回の企画展は、「水」に着目して、長い歴史のなかで、雨と上手につきあってきた日本家屋の知恵と工夫を考察しようというものです。開催に先立ち、約50名の参加を得て、オープニングセミナーを行いました。
セミナーの前に、まずは企画展の内覧会です。
入口正面には、瓦屋根の一部が実物大で展示され、近づくと、屋根をつたって「雨」が流れているのが見えます。
古来、日本の住まいは、雨の多い気候で快適に暮らすため、雨や湿気と共存するさまざまな知恵と工夫が施されてきました。瓦葺や茅葺の屋根の傾斜は、雨を流れやすくするためのもの。庇や縁側、雨戸の発達は、雨の侵入から住まいを守るための工夫です。
奥に進むと、迫力ある茅葺の屋根。これも本当の茅で施工された実物です。
一つは「真葺」(茅の根本を下に向けて葺く)、もう一つは「逆葺」(茅の穂先を下にして葺く)。誰もが一度は目にしたことがある茅葺屋根ですが、こんなに間近で見るのは、めったにないこと。「普段は高いところにあるから、職人さんしか見られないですものね。きれいですね」と、感想を語る参加者のみなさん。セミナー講師の安藤邦廣さんと原田多加司さんも興味津々の様子です。
その茅葺屋根にも「雨」を降らせて、水の流れがわかるようになっています。
茅をつたう水の音。その心地いい響きは、ぜひ会場で聴いてください。
見学者の質問に気軽に答える安藤さんと原田さん。
安藤さんは、木造建築の第一人者。伊勢神宮や正倉院にも用いられる伝統的な「板倉構法」に現代の建築技術を融合させて、日本の家づくりに新たな息吹を吹き込み、国産材の利用促進と森林資源の復活、地域づくりに取り組んでいます。
原田さんは、サラリーマンを経て、江戸中期から続く家業の杮(こけら)葺師・檜皮葺師を継いだ経歴の持ち主。国宝や重要文化財などの修復を多数手がけ、日本建築の屋根の歴史、素材、構造そして葺き方を知り尽くす方です。
「檜皮葺」と「杮葺」の展示コーナーで解説する原田さん。
「耐久性のある檜皮葺は重厚で曲線の多い社殿などに、杮葺は修理も簡単なので桂離宮のような書院、茶室など人の出入りのある建物に用いられてきました。その技法と材質は、モンスーン気候の日本の風土によく調和したものです」。日本建築の真髄を知る原田さんの解説に、参加者のみなさんも納得です。
今回の企画展にご協力いただいた、高浜やきものの里かわら美術館の金子智さんからも、一言。「瓦が身近な存在になったのは江戸時代です。防火性、耐久性に優れた瓦は、一気に一般家屋に普及しました。三州瓦の産地、三河は瓦に適した粘土が豊富で、今でも全国シェア7割を占めています」。
その後は自由に見学して、セミナーの時間となりました。
オープニングセミナーのテーマは「雨仕舞の知恵―寺社建築と民家づくり」。
建築家の安藤さんと杮葺師・檜皮葺師の原田さんに、雨と生きる日本建築の知恵を、存分に語っていただこうというもの。ファシリテーターは、編集者の坂井基樹さんです。
「日本建築は 雨とどうつきあってきたのでしょうか」という問いに安藤さんは――。
「雨とのつきあいと言いますが、本当の問題は湿気。現代は、湿気を防ぐために夏はエアコン、冬は加湿器。昔から人間と建物の健康にとって湿気対策は重要だったのです。日本家屋は植物素材でできています。これをいかに、傷ませないようにするか。また、島国のなかで、資源を循環させて長い年月建物をもたせることも重要ですので、日本の気候風土に根差した建築が必要だと言うこと。ですから『住まいは夏を旨とすべし』です」。
安藤邦廣氏
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盛り上がったのは、日本建築の「屋根談義」。
「みなさんを代表して」と、安藤さんが原田さんに質問したのは、檜皮葺と杮葺の使い分けについて。「一番の理由は耐用年数でしょう。檜皮は約30年。杮は約25年。杮は短いですが、部分的に取り換えができるので住宅建築には杮なんです。経済的ですからね。寺院や神社は、神、仏の屋根ですので、長く維持できるのがいい。それに檜皮の方が大きな屋根に向いています」。と原田さん。
「日本建築の歴史は屋根の歴史です。りっぱな社寺は檜皮と言いましたが、地域的に見れば、伊勢は茅葺、京都は檜皮葺、奈良は渡来文化の影響を受けて、中国様式で瓦葺という違いが見られます。“あおによし 奈良の都・・・”は、瓦の美しい奈良の都という意味です。
京都は、日本古来の、木の皮を葺くというやり方を続けて、檜皮の都になりました」。
原田多加司氏
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「伊勢で茅葺が始まったのはなぜか」と安藤さん。そこには、国策としての稲作を導入し、 普及させるため、日本の第一の神社として伊勢神宮を稲作のシンボルと位置付ける必要があったと言います。
「“豊芦原の瑞穂の国”なので屋根は草。つまり森林資源である「木」から「草(稲)」へ。だから日本津々浦々、神社は茅葺でふかれているでしょう。伊勢神宮でも人の出入りがあるところは檜皮葺なんですよ」。
この次、京都へ、伊勢へ行くときは、「屋根」に注目してみたくなるような、歴史ロマンも感じるお話で、参加のみなさんは、日本の気候風土のなかで、日本建築が培ってきた知恵と工夫にあらためて思いをはせる時間となりました。
企画展の詳細は→こちら
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