2012年5月10日 インタビュー:大橋恵美(LIXILギャラリー)
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大橋 |
藤井さんの作品は、滲むような色彩が目も眩むような目映さで、初めての体験です。
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藤井 |
僕にはまず、今までになかった体験を作りたいということがありました。
街を歩いていてパチンコ屋さんやショッピングセンターのイルミネーションを見ると、自分だったらこうするのにと思うんです。例えば、看板のバックライトの蛍光灯が1本だけ消えているのがある、それは社会的にはメンテナンスされていないと思われるわけですが、この明から暗へのグラデーションはデジタルではないアナログのもので、それは表現に使える、そこに魅力があると考えるんですね。
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大橋 |
LED技術ありきで始まったのですか。
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藤井 |
いえ、学部生のときに豆電球から始めました。大学院の時に、自分はただ光っていたらOKだったんじゃないかと見直しました。その辺くらいから今の表現が始まりました。本を買ってきて、どうしたらLEDを効率よく光らせられるのか、消えたりついたりという回路もやり始めたのですが、それは逆に技術に引っ張られて、おそらく作ったものが10年後にはもっと簡単になって、あまり意味を成さないと思いその時点ではずしました。
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大橋 |
藤井さんの光のイメージはありますか。
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藤井 |
僕は大学受験の時にデザイン科を目指すのですが、もっとこういう風に描かないと受からないよという助言を、デザインって言われた通りにしないといけないと思ってしまい、断念しました。立体に向いていると言われたので、職人は技術もあって、ある種デザインの側面もあって面白いんじゃないかと思い、陶芸コースに進みました。
でも実際やってみたら、『焼くこととは何か』と問われたり、技法や釉薬の技術など制約が多くて表現にまで到達出来なかったんです。唯一、時間をかけて取り組んだ素材が磁器で、薄く作ると透過性があるというところに惹かれて、光と組み合わせ出したんです。磁器は陶器より温度の高い1200度後半で焼くのですが、窯の窓からその光を見ていると、赤黒い色からオレンジ、黄色へ変わり、白く光ると磁器の焼き上がりで、本当にピカッて白くなって、それは熱が発する光なんですね。それは本当に面白いと思いました。チェルノブイリの事故の時に炉心溶解を見た人が、白を通り越して青かったという話を学生時代に読んで、蛍光灯も輝度を昼白色と言われる5000ケルビンから10000に上げると青白くなっていくという経験にリンクして、スペクトルのように、真ん中に白があり、黄と青で挟まれてグラデーションになっている、通常の虹色とは違う感覚でした。最近の作品の外側が黄色で内側に青を使い、白や緑で繋ぐ色使いにおいて参考にしています。
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大橋 |
光の組み合わせでシミ状態を作るのは難しいですか。
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藤井 |
自分でも毎回なんでこんな難しいことをしているんだろうと思います。例えば黄色と青を配置する時、黄色も、青も、混ざっている部分も見える、という風にしたいのですが、どっちかが勝っているという状態を延々と繰り返し、試行錯誤しています。
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大橋 |
身近な電気光源を使うので、きれいだなと見る人もわかりやすかったり、逆に手法を質問されたりすると思うのですが。
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藤井 |
「Stain」は壁に掛かっている作品ということで絵画と比較されるので、パネルとしてそれなりに薄くしなくてはならない。一般的なLEDは砲弾型という照射角度が30°のものですが、僕が使っている光源は120°という広い光源で、色々取り寄せてその中でも帽子型、真ん中が凹んでいるもの、チップ状など色々ありますが、全部やってみて一番良かったものを使っています。
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大橋 |
光の作家はたくさんいますが、藤井さんは好きな作家はいますか。
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藤井 |
好きな作家を一人に絞るということは出来ませんが、その中でも意識しているのはオラファー・エリアソンです。見て単純にカッコイイと思って、毎回展覧会を見るたびに悔しい思いをして、そういう意味で意識しているというのはあります。
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大橋 |
オラファー・エリアソンはその装置にも魅力があります。
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藤井 |
そうですね、僕の「Stain」は裏側がすごいハンダだらけで、それを面白いと言う人も多くて、自分でも痕跡というか、そこは唯一手技が見られるので気になってはいたんですが、最近そういう部分を見せてもいいのかなと思って、透明のアクリル板にLEDを取り付けたり(Staining)、展示台に立てて基盤を見せる(Stain "Lightfall")ということも試みました。商業空間においてステンレスの台の上に作品があって、裏側の手作業のギャップを見せる、商業空間や建築というのは実は全て手仕事で作られている。「Stain "Lightfall"」は、そういうところから作りました。
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大橋 |
「Color」は光よりもリボンの形状に目がいきます。標本のように箱に入っています。
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藤井 |
白い光の光源なのに、偏光板を与えると色が出るということが面白いと思いました。色は光の作用で、例えば白いものを黄色の光で照らすと黄色に見える。結局色は物質から発せられるのではなく、光がもたらすものであり、透明のものでも光の作用で目視出来たり、色付いて見える、光の色を小さな箱にとどめているように感じました。この作品は、いつ見ても本当に美しいです。その感覚を残しておきたくて定期的に作ってしまう。偏光板を通った光は特定の方向にしか振動しない光波の状態となり重なり合ったセロハンテープの厚みは、この光の波長に干渉して、様々な干渉色が現れます。つまり、箱やオブジェよりも、光やその色がはっきりと見える、物質ではない、でも見えている、存在するということが重要なんです。自分が光を扱う上での概念と言いますか、色とは、光とは、がいつも見える作品です。
20歳位の人に聞くとCDは1枚も持っていない、でも音楽はmp3などデータで聞いているんですね。データが消えたらどうするのか、パソコンがクラッシュしたらどうするのか、僕はすごく不安でCDで持っていたい、そういう感覚はもうないようです。やはり人間の身体は三次元なのだから、その感覚は絶対あった方がいいと思うんです。壁に投影した作品は、光のイメージを見ているのですが物質としては壁を見ているだけなんです。壁に光が置かれた状態、光が物質として存在しているように感じる、そのような感覚になれる、感覚の範囲を拡げることができるような表現を目指します。
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