酒百宏一(Sakao Koichi)さんはフロッタージュ=こすりだし技法で作品を制作します。 2006年「第3回大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ」に参加した際には、地区の寄り合い所で、住民や観客とともに周囲の森の葉を何千枚と写し取り、そこの内壁を緑の葉で覆い尽しました。その様は、森がかたちを変えて建物の中に再現されたようなやわらかな美しさと迫力で、村人に「これは私達の森だ」と大きな感動を与えました。フロッタージュとは、手触りを通して見知ったものの価値を再確認する行為でもあったのです。 |
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その後続けて行われた「第21回国民文化祭やまぐち2006・彫刻展」では、宇部市の商店街でフロッタージュを行いました。完成した小ぶりな作品をその店舗内に展示し、観客はマップを見ながら店を訪ねて作品を観るというスタイルでした。先祖代々の店の看板、昔使っていた金庫の一部、壊れたデコラ内装の一部など、いずれも店の歴史と思い出を色濃く残す一品で、嬉しそうに場所やモノの説明をする店主たちの言葉と、手触りがわかるほどに丁寧に写しとられた作品を観ながら、訪れた観客はいつしか宇部商店街のセンチメンタル・ジャーニーをしているという濃密な作品でした。
さて、今回INAXギャラリーで個展を開催することになった酒百さんは、銀座の街をフロッタージュすることにしました。フロッタージュを行った場所は約80箇所。ホテル西洋銀座、ギャラリーの多いレトロな奥野ビル、松坂屋デパート、江戸時代から続く版画の老舗や歌舞伎座など、会場では実際の場所の写真とともに展示致します。許可がおりた場所とは、意外や意外な場所でした。誰もが見知った街・銀座の、手触りから生まれる新しい賜物のような物語をどうぞお楽しみ下さい。
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