2013年1月15日 インタビュー:大橋恵美(LIXILギャラリー)
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大橋 |
山根さんの作品はインスタレーションの雰囲気が独特です。作品をつくる時は完成形を想像してから始めますか。
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山根 |
かたちが出来た時に、そこに模様を描いたらどんな風に見えるだろうかという想像はしますが、大まかなイメージで始めて、制作過程で自然な垂れ具合など土の特徴を受け入れながらつくっていきます。
「蠢器」(2007)シリーズは展示場所が南青山のスパイラルガーデンだったので、「スパイラル」に反応して、土をひねる動きを加えることで生まれました。
銀座の奥野ビルの展示(2012)では、薄暗く閉鎖的な独特の雰囲気があった空間を利用しました。ちょうど6月で湿気と匂いが立ち込めて異様な空気感が漂っていました。いつもそんな感じで、私は場所や言葉にインスパイアされて制作します。
今回のセラミカの会場では、明るい状態の時には、まったくこの空間に置かれた自分の作品が想像できなかったのですが、一瞬照明を暗くしてもらった時に展示全体が浮かびました。
今回は壁で蠢いているもの、登っていくものと、生き物のような感じを出したいと考えています。1点1点の作品を見せるというより、構成によってふわっと雰囲気で見せたいと考えています。
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大橋 |
有機的な連続模様に、生命力を感じます。
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山根 |
具体的なモチーフはないんですが、作品では、なんとなく生きているような死んでいるような曖昧なものをつくることを目指しています。会場に展示する時のインスタレーションの雰囲気もそうです。
「魚」(2011)は単純に魚を意識してつくりましたが、動物でも植物でも、細かい細胞の集合体なわけで、その細胞みたいな存在を、肉眼で見えるくらいの大きさにしてみたいということでしょうか。私の模様は細胞そのものではないのですが、シンプルなパターンを増殖させるイメージでつくります。その時、どうしても幾何学的なラインは出てこないんです。動きを感じさせる、流動的なかたちになります。
自然界はユニークなかたちに満ち溢れていて、飽きることがなく、すごく惹かれますが、どんなにしても、辿りつくことはできないんですよね。
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大橋 |
模様とかたちの関係は。
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山根 |
模様と立体はもともと別々の発想だったんです。以前から模様を描いたドローイングを描き溜めていて、それはやきものの表面に装飾するためではなく、平面作品として制作していたんです。学生の時課題の講評で、一緒にドローイングのファイルも置いていたら、こっちのほうが面白いんじゃないかって教授に言われたんです。そこで初めて自分の中で立体とドローイングが結びついて、模様をつくろうと思いました。
制作方法は象嵌技法ですが、今では、かたちの表面を削って模様で埋めていく作業が一番面白いです。その作業のためにかたちという土台をつくっているのではないかと思うこともあります。
私の作品はよく素材を問われます。土に鉄分を混ぜて成型し、焼成後に生じた茶色地の上に金属質の釉薬を刷り込みます。刷り込んだ後に布で釉薬を拭い取るのですが、金属質が染み込んで完全に取れなくなった部分がシミのように黒く残って、木彫を連想させるようです。石を連想される方も少なくないです。
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大橋 |
発表は山根さんにとってどんな場ですか。
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山根 |
作品は発表を意識して制作しています。ここ数年はコンスタントに発表をしてきましたが、単純に良い事を言われれば嬉しいし、でも良い事ばかりではないですよね。結局は自分で決めるから、何を言われても受け入れていないのかもしれませんが、自分の考えと一致せずに空回りする時もあります。そうした意図しない感覚を得ることも大切なのかもしれません。
よく聞かれるのですが、色に関しても、自分では今の作品は模様が重要で、カラフルなのが嫌いな訳ではないけれど、ひとつの作品の中に色んな要素があるのが好きではないんです。組み合わせや配分が上手く行けばよいのでしょうが、少しでもズレたら落ち付かなくなります、まだそちらの方向にはいかないと思います。
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大橋 |
山根さんはなぜ、やきものを選ばれたのでしょうか。
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山根 |
私は子どもの頃から細工が好きで、何でもかんでも買ってもらえるわけではないですし、そもそも入手しにくい環境だったのでその辺にあるものを材料にしてつくっていました。絵も好きで高校生の頃は油絵を描いていました。美大で何を選考するのか考えた時に、単純にやったことのないことをしたくて、ロクロに興味を持っていたので陶磁か、もしくはガラスで迷いました。
やきものには原始的なイメージがあって、自分の手が直に触れてかたちがつくれることも魅力で、それが自分の性に合っていたのだと思います。人に頼むことが苦手なので、一人でできない作業は苦痛でした。そうした今までの自分の中にあった部分から選んでしまったことは、安易だったかとも考えますが、でもたぶん、こうした仕事が嫌だったら既に辞めていたと思います。
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大橋 |
卒業後はどのように制作をしていますか。
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山根 |
大学を卒業して6年になりますが、今は共同アトリエを借りています。同居している人たちはやきもと金属の作家です。
私は人がいたほうがいいんです。飽きっぽくてすぐ怠け心が出て一人では長時間集中できないんです。ドローイングを始めたのも、集中してどこまで描くことができるか、トレーニングだと思っています。アトリエでは誰も見ていませんが、中途半端なところで作業も止められないし、この環境は大切ですね。
大学を卒業してからもつくり続けたいと漠然と思っていたのですが、フラフラしていた時期もあり、今にして思えば相当不安定でした。
でもよく考えたら、私は物心がついた時からずっと不安は友達だったんです。例えば、現在考えていること(=目標)と、未来にできること(=結果)までは絶対に時間的空間があります。その到着地点までに何をしたらいいのか、一本の線にならないと気が済まない。日常生活ではある程度波があるほうが楽しいとは思うんですが、私はそこからまた脱線するんではないかという恐怖があって、周囲に申し訳無い位テンションが上がらないのです。
だから何かに挑む前には徹底的に考える癖がついて、そして結果的にあまりブレないんです。だいたい9割方は想像の範囲内であるので、大抵のことは大したことないなという感覚があります。
ロクロを初めて体験した時も、特別な衝撃も、感動もまったくなく、想像の範囲でした。
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/インタビュー終了//>