2010年10月30日 インタビュー:大橋恵美(INAX文化推進部)
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大橋 |
高柳さんの作品は、タイトルにユーモアがあって宇宙的な広がりを感じさせつつ、古典的な釉薬の使い方や端整さが魅力です。タイトルはどうやってつけているのですか。
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高柳 |
物語を組み立てる途中で思いついたり、逆に題名が決まるとパッとストーリーが浮かんだりします。
二回生の時の「THRON」は、ドイツ語で王座という意味と俗語でおまるという意味があって、その対照が面白いと思いました。「星座早見盤 トラワレ」は、ろくろで成形して、うつわのかたちをしているけど全く違う機能を持って成立しているものをつくると決めて、何かないかと探していたところ思いつきました。
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大橋 |
中国の昔の発明みたいですね。「ゆうえんちの真実」は中国の絵付けの壷のようです。
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高柳 |
それまで釉薬が中心でしたが、大学院の受験もあって、日本の陶磁器の歴史を勉強していて絵付けに興味を持ったんです。なぜ絵付けは昔のままなのか、もっと変えられないかと思って初めて色絵をやりました。
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大橋 |
「ゆうえんち」という名前ですが、地獄の様子ですか。
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高柳 |
そうです。地元の富山に立山曼荼羅という地獄絵巻があって、それを幼稚園の時に見てすごく衝撃的でした。大きくなってから見直してみると、生き生きしていて、すごく自分のものの見方に影響があったことがわかったんです。昔は人を怖がらせるものだったのですが、今見ると現実味がないので逆に面白いものと捉えてしまう。地獄の遊園地という発想です。雲から蜘蛛の糸が出て、血の池に入り、地獄の七層を下っていきます。昔はお腹が出ているのを餓鬼といったのが今なら肥満だなと思ったり。
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大橋 |
鳥に攫われたり馬に蹴られたり、地獄体験ワールドですね。
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高柳 |
と、見せかけて遊んでいるテーマパークです。遊園地も非日常の場ですし。一番下には一応出口を用意しています。
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大橋 |
怖いけど楽しくて最後に出口があるのが、明るい性格なのかもしれませんね。
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高柳 |
仏教系の幼稚園で「蜘蛛の糸」のような話をすごく聞かされました。隣にお墓があって、どろどろという音を先生がオルガンで弾いて脅かしながら片付けをさせるんです。富山には「もうもう」という子供が悪い事をすると来る妖怪がいるのですが、押入れに入れられた時に見えました。ふわふわしていて、虎のような感じでした。
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大橋 |
すごいですね。きっとそこで今の高柳さんが形づくられて、何かつくろうとするとすっと出てくるのではないですか。
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高柳 |
「ぐるぐるの風景」は、流行も含めて世界の流れが回ってスパイラル状になって進んでいるなと実感した時があったんです。かたち自体はうつわからイメージしていますが、中にあるものを引っ張りぬいたようなイメージでつくっています。
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大橋 |
うつわでは内と外ということよく言いますが、ひっくり返すような感じですか。
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高柳 |
内と外の間にもう一層あって、その間の厚みに何があるのかがすごく気になっています。間に何かがいるような、期待とか恐怖とかがあるのかもしれません。
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大橋 |
2008年にフィンランドへ留学されましたね。
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高柳 |
信楽陶芸の森でカイ・フランクのミルクピッチャーを見たときにすごく感動したんです。北欧は寒くて二重窓なのですが、その隙間を冷蔵庫代わりにして丁度入れられるサイズで、新鮮なミルクを使えるようにするというものでした。そういう、自分の生活から発見するものづくりというのに興味を持っていたら、交換留学の報告会で、そのアラビア社の工房の上にある大学に行けるというのを知って興味を持って。
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大橋 |
フィンランドの職人さんの、日本人とは違うセンスを感じましたか。
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高柳 |
すごくシンプルで凝ったりしないけれど上手い、という感じです。既にあるものからちょっとの差で全然違うものを見つけてつくり出していく。
在学中はデザインの授業だったので、今までと違うつくり方というのに刺激を受けていましたが、段々消化してきた気がします。
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大橋 |
「転がるアンサー」は、タイトルがとても素敵です。答えがくるくる変るということですか。
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高柳 |
自分の頭の中にあるものを巻き込んで雪だるまのようになって、答えが出る。それで中にくるくる回る玉が入っています。「ひかるひらめき」でひらめいて、転がるアンサーで答えが出るというイメージです。「からだに飛び込む脳のクラウン」は頭でばかり考えていないで体で答えを出したいという自分の基本そのままがかたちになっています。脳が飛び込んでできる血管のミルククラウンに、下は臓器です。
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大橋 |
美しくて、祭器のような感じです。
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高柳 |
仏像だとか、そういう強い存在感、揺るがないイメージには興味があります。それはやきものも持っていて、魅力のひとつだと思います。
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大橋 |
高柳さんはどうして陶芸を選んだのですか。
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高柳 |
工芸基礎でやった時に、ろくろをひくのと薪窯を焚くのが楽しかったんです。自分の知らないところで変化していくというのが面白かった。土と自分の間にろくろが入って駆け引きしている感じや、窯とのやり取りが好きです。全身を使っているという実感があって、特に大きいものをひいている時の方が体を使っている感じがします。逆に、最後の最後に窯に預けて変えてもらうというのも魅力です。
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大橋 |
端正な作品ですが、収縮率の計算など、自分にとっての成功率というのは高い方ですか。
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高柳 |
ある程度経験してこうなるだろうというのはありますけど、今でも絵付けの焼成前と後の色が全然違ったりすることに驚いています。ただ失敗する時は逆によい方向へ作品を持っていけるチャンスでもあって、爆発した作品から代替で紐を使ったり、自分の回路を変えられる機会と思っています。
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大橋 |
鏡や電球と組み合わせた作品もありますが、異素材を入れることについてはどう思いますか。
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高柳 |
異素材を使うのは昔から好きでした。やきものだけでやらないといけない、みたいなこともあるんですが、自分としてはやきものは異素材と相性がいいのが魅力と思っているので、使ってもいいのではないかと思いながら使っています。
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大橋 |
高柳さんの技法は古典を踏襲している部分もあるわけですが、パロディやキッチュにもなりかねない部分もありますよね。
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高柳 |
キッチュな感じをどうしたら無くせるかというのも課題です。やっぱり自分でやると職人さんの足元にも及ばなくて安っぽさを感じてしまう。伝統というものを意識し始めたのは四回生からですが、今は続いてきたものの中に自分がいて、変えて、続いていくんだという思いでやっています。
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/インタビュー終了//>