やきもの展 GALLERY3




展覧会案内

桑名紗衣子 展 -YAKIMONOワークス“For New Palace”-<br>Kuwana Saeko Exhibition

桑名紗衣子 展 -YAKIMONOワークス“For New Palace”-
Kuwana Saeko Exhibition

2010年11月8日(月)〜11月27日(土)

■ 休館日
日祝日
■ 開館時間
10:00〜18:00
■ 観覧料
無料

アーティスト・トーク  11月13日(土)18:30〜19:00

プレスリリースpdf_icon_s.gif ※ご覧いただくにはAdobe Reader が必要です。

False Watersideより 2010



展示会概要
青い滝の絵が入った豪奢な金の額縁が壁に掛かっています。その左には梱包材でぐるぐると包まれたミロのビーナスらしき像、右には頭をもたげたトラの置物・・・と言いたいところですが、すべてに違和感があります。桑名紗衣子は、私たちが抱いているビーナスやトラの置物のイメージに、いくつものイメージを十重二十重に積み重ね、見ているものへ問いかけてきます ―あなたの知っているもの、見ているものは本当にそうなのでしょうか?
桑名紗衣子

2010年ガレリアセラミカ会場風景

桑名紗衣子 桑名紗衣子

大学で彫刻科だった桑名紗衣子は、2008年頃からセラミックを素材に作品をつくり始めます。
桑名がものをつくる考え方 ―イメージをつぎ込み、そこから関係性による変化を実感する― に成形、乾そう、焼成、釉薬、窯変と、土が変容していくやきものの制作過程がぴったりとはまったといいます。大学在学中には、長崎県の波佐見町でやきもの修行をし、土や釉薬の扱い方を身につけました。
やきものでつくられた桑名の作品は、ひとつひとつ石造と見まごう重厚さや、中世の美術品のような美しい古色を釉薬や上絵、土の質感でリアルに再現させて魅力的です。
桑名紗衣子 桑名紗衣子

桑名紗衣子

が、なによりもモチーフが重層的に重なって関係しあい、派生していくところにその特徴はあります。「windows08」シリーズでは、キリスト教会の窓枠に、北斎や広重の浮世絵を組み合わせました。インターネットを通して日本文化を知る現象への興味から始まって、さらに滝信仰や自分の好きなカーテン、装飾などが自らのフィルターを通して加わり、オリジナルに変化しています。
「ツバメ滝」「Venus de Milo」「Tiger」の三点で構成された“まがいものの美術”は、パーツを入れ替えて “私の系統樹”へ移り変わり、また繋がっては別のストーリーを語り出します。
高校時代には油絵を描き、大学では彫刻を専攻し、そしてやきものを表現手段にと、ボーダーレスに制作を広げていくことには自由さと同時に不自由さも介在していることでしょう。
今展では、新作を含めて、神殿をイメージした世界を展示する予定です。桑名のユニークな世界をぜひ会場でご覧ください。
インタビュー
2010年9月6日 インタビュー:大橋恵美(INAX文化推進部)
大橋 桑名さんの現在の作品はセラミックですが、もともとは彫刻科ご出身です。様々な素材がある中でなぜセラミックを選ばれたのでしょうか。
桑名 もともと異素材を組み合わせてインスタレーション作品をつくっていたのですが、やきものをつくる過程が、自分のコンセプトというか、考え方に合っている気がしたからです。
ものを表現するときに、私は何かを削ぎ落として本質に迫るというよりも、いろんな関係性やイメージをたくさんつぎ込んで出てくるたたずまいが大切で、とりあえずいろんなイメージを重ねて違うものにする作業を通して、関係性から物を把握していくという感覚なんです。
やきものは、モデリング、素焼き、釉薬、本焼きという工程の作用があって、窯に入れたことで手を離れて違うものになっていく部分も含めて自分の中でしっくりきたんです。
パーツでつくっていることも、ここがダメだったら違うもので代用できるという、緩さというか許容範囲、交換可能性を求めているからだと思います。
使っている転写シートも既製品で、商品化されたイメージを使用することに抵抗がないのですが、それは自己表現というよりも、自分とは関係ない部分で、周りにある情報に左右される部分が重要だからだと思います。
大橋 最初の作品「windows」シリーズでは、教会の窓のような平面的なものをモチーフにされました。
桑名 高校生の時に油画を描いていて、私の大学の彫刻科は、いわゆる彫刻をやらなければならない制約がなかったので、自分が表現したいことを考えたときに、ボーダーレスにできるものとして自然に平面というかレリーフをつくっていました。
「windows」シリーズは、本物の「赤富士」という作品を見たことがなかったのですが、インターネット等ではよく見て知っていたんです。
これに限らず、自分が知っていると思っている日本のものは、実は本物を知らなくて、パソコン等の西洋のシステムでつくられたものを通してしか見ていないんじゃないかと考えたんです。
それは否定しているわけではなく、その現状自体がすごく面白く感じられて、パソコンの画面の引用として、キリスト教会の窓枠みたいな構造体越しに見る浮世絵というのを思いついて、始めました。
大橋 「windows」にはパソコンのWindowsもかけているわけですね。
桑名 そうです。
でもこの後、関係性はもっとあるはずなのに、西洋と日本という二面性でしかものを語れていないというのがすごく引っかかってきて、もっといろんな要素や自分に近い部分で話をしたいと思ったんです。
「きりふりのたき」ではカーテンの模様のハイヒールは自分の好きなモチーフだったり、窓枠も以前は既成のものをそのまま引っ張ってきたんですが、部分やパターンを組み合わせて、装飾の部分もオリジナルのかたちをつくるようになりました。
大橋 セラミックの風合いが不思議な感じです。装飾の部分は石膏型を使うということですが、古色をつけるときは釉薬や上絵でつけているんですか。
桑名 そうです。
やきものの知識が全然なかったので、大学の四年生のときに長崎県の波佐見というところで泊り込みの研修を受けたんです。
大学に募集が来て、そこで釉薬の調合の方法や、焼き方など全部教わりました。
波佐見町全体がやきものの町で、学生は宿舎を借りてそこから勝手に「頼もう!」って武者修行のようにいろんなところに行けるんです。
自分が勉強したい窯元さんのところに一週間ないし二週間行って、ちょっとお手伝いしながら自分の作品を挽かせてもらったり、釉薬の調合を見せてもらったり。
私がつくるものは評価のしようがない、重くて厚くて水漏れしちゃうようなものばかりだったんですけど、戻ってきて就職しませんかと書面がきたりして、いい経験になりました。
大橋 梱包シリーズは、どのようにして生まれたのですか。
桑名 「floated wood」はケヤキの木を包んでいる作品なのですが、実際に生えている木を型取りしているんですが、タイトルがなかったら果たして木とわかるのか。
もの自体はもう木でもなく空洞の筒で、表面は梱包材だったりしたときに、元は木だったという事実がどう残るのか。
実はこうしないと焼けなかったからなのですが、中はリブが丸見えという必然性と。
このシリーズは存在だったり、時間だったり、かたちとして捉えられないものを、梱包材を巻くことによって要素として使えないかなというのがあったんです。
「False Waterside」は「ミロのヴィーナス」、「Tiger」、「ツバメ滝」の三点でひとつの作品になっていて「まがい物の美術」みたいなものをつくろうとしました。
「ミロのヴィーナス」には折れているほうの手がリンゴを持っていたという逸話があって、もし野生の動物の手が生えていたらというストーリーを組み込んだら面白いなと思って鷲爪のようなものが出ています。
大橋 すごく怖いものがこの中に入っているような独特な作品になりました。
「Tiger」も既にかたちがわからないくらいに要素が重なっています。
桑名 中国製のトラのぬいぐるみを石膏で型取りしたんです。
もともと防犯用として売っていたもので、目がLEDで光って鳴く機能がついているんです。それを表面のトラ柄は剥奪して機能は残しています。
あるお祖母ちゃんが吠えて回るおもちゃの犬に靴下を履かせていたんです。
私から見ると出来が悪くて犬には見えないのに、本物のペットとして扱っていて、多分靴下を履かせたのも愛情なんです。
なぜそれを犬として受け入れることができたのかと考えたときに、ものの捉え方ってなんなんだろうと思ったんです。
大橋 卒展の「False Waterside」、最近の個展の「My Phylogenetic tree」は三点のうち1点がヴィーナスから柱に変わり、でも「ツバメ滝」は共通です。
これは滝の絵がダブルビジョンのようになっていますが。
桑名 アンディ・ウォーホルのエルビス・プレスリーの版画をシュミレーションしたのですが、ウォーホルが扱っているアイコンとしてのプレスリーやモンローに対して、例えば滝の信仰という感覚が東洋人というか私たち独特のものとしてあると思った。
これは実際に熊野にある滝で、インターネットの観光用の写真を拡大して加工しています。
大橋 関係性を変える、いろんな組み替え方が出来る、お話を聞いていて組織図じゃないけれどチャートにしたくなります。
桑名 「My Phylogenetic tree」というタイトルは、各作品をマッピングして系統樹として見せてみようという試みです。
部分で分裂してしまっているように見える私の作品の中の要素が実はひとつのストーリーだったり、集合したときの成り立ちのようなもので構成されているのではないかと明確に考えるようになったんです。
大橋 作品をつくるときには最初にこういうものをつくろうと思ってつくるんですか、それともつくりたい!と思ってつくるのでしょうか。
桑名 結構ネタ集めには出かけます。量販店に行ったり、ネットサーフィンしたりしてそれからつくりはじめます。 これと同じクオリティが出せれば他の表現方法、例えば映像でも写真でも構わないと思うんです。
セラミックの一番の魅力って、もの自体が変ってしまうところにあるのかもしれません。
独特のなまものじゃなくなる感覚というのも、装飾的な要素として私のやりたい事にあっているのではないかと思います。
作家略歴
1982 千葉県生まれ
2008 武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業
2010 武蔵野美術大学修士課程美術専攻彫刻コース卒業
展示履歴
2006 彫刻学科有志展示「曖昧な」居場所展 企画・展示
2007 学内展「逸脱」
2008 企画展「やわらかな霹靂」 FAL 武蔵野美術大学(10/16〜10/24)
企画展「Joy」 Pax project space北京(10/29〜2009.1/30)
2009 理化学研究所展示プロジェクト2009 横浜(1/9〜12/15)
Fresh企画展示「FRESH EXSPAND」 R2柏(4/4〜4/19)
企画展「美しい誤読」 武蔵野美術大学( 10/15〜10/22)
2010 トラ!トラ!トラ! マキイマサルファインアーツ(1/7〜1/19)
ArtFairFree Vacant原宿(4/1〜4/4)
個展
2008 「SomeFloats」 麻布アートサロン(11/26〜12/3)
2010 「My Phylogenetic tree」Swich Point(6/17〜6/27)
受賞履歴
2008 平成19年度卒業制作優秀賞

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