2009年9月8日 インタビュー:大橋恵美 (INAX文化推進部)
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大橋 |
出和さんの実作品に出会ったのは2008年世界陶磁器展美濃の「Core」でした。
それまで写真では拝見していたのですが、細胞写真のようであまりにも美しく本当かどうかわからなかった。(笑)最初からこうした紙細工のような作品だったんですか。
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出和 |
そうです。それまで磁器が透けるということを知らなくて、学部2年の時に磁器の湯飲みの底が透けているのを見て、素材の美しさを感じて、磁土を選びました。
もともと石川県の出身なので九谷焼が身近にあって、やきものと言えば陶器というより磁器という風ではあったんです。それで白くて透けるものをやってみたいと思って、実験し始めたんです。3年生の後期頃から作品になり始めました。
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大橋 |
作品は全て磁土で真っ白なのですが、2004年に唯一黒色の作品「light」、「群集」がありますね。この部分は陶土ですか。
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出和 |
そうです。土の肌理の細かいものを使って、すごく薄く延ばしています。この頃は未だ自分の造形のテイストがわからなくて、試行錯誤でした。
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大橋 |
「祈り」(2005年)は大きな作品ですが、これはどうやってつくりましたか。
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出和 |
書道半紙に泥しょうをつけて丸めたものをたくさん焼いて、紐を通して天井から吊り下げました。
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大橋 |
出和さんは透過性をテーマにされているので「ライト」というタイトルをよく使われていますが、金沢美大の方は大きな作品やインスタレーションなど、ダイナミックな作品をつくる方が多い気がしますけど。
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出和 |
確かに私の世代あたりはそうでしたが、最近はうつわをつくる学生が以前より増えてきたように思います。私も昔はうつわを少しつくっていましたが。
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大橋 |
陶芸では両方をやる方が多いですけど、なかなか難しいのではないですか。
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出和 |
私は陶芸というより、美術という感覚が自分自身の中にあるような気もしますが、工芸、やきものを行なっているので技術もとても重要だと思っています。
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大橋 |
自分のやりたいかたちも技術があってこそ、初めて表現できる世界ですよね。時間が見えますね、作品にも技術にも、かけた時間が見えるのではないですか。
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出和 |
例えば漆だと塗りの甘さとか、見たらわかりますよね。
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大橋 |
「Chaos」(2006年)は壁に直接インスタレーションをしていますが、大変だったのでは。
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出和 |
これは1点ずつ、一晩でセロテープで貼り付けたんです。展示期間も1日だけだっ
た。
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大橋 |
すごい集中力ですね。こうした作品を拝見しても、ちゃんとひとつずつ、つくって来ていることがわかります。
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出和 |
つくり始めると、こもって人にも会わずに集中してつくってしまいます。私の作品は1枚ずつ薄く焼いて、接着剤で接着しているんです。
「Shine」(2005年)ではそれを立たせようとしてアクリルで支えているんです。これは写真では一見キレイに見えるのですが、後ろに支えがあって、そこは上手くいっていなくて。これらの作品を先生に見て頂いた時に、私の作品は光や風のような自然をテーマにしているので、重力を感じない、設置面が少ないと言われました。
大橋:大きな作品なのに浮遊感があって、飛んで行ってしまいそうな軽やかさがありますよね。やきものでないみたいな。でもそれを立たせたい時には物理的な難しさがあったんですね。
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大橋 |
大きな作品から「Core」のような小さな作品に変化していったのは。
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出和 |
最初はアイディアスケッチもマケットもなく、つくり始めていたんですけど、卒制の頃からマケットをつくるようになりました。私は本当にスケッチもしなくて。スケッチをすると頭で考えられる範囲でしか出てこないんですけど、いきなり手を動かして手で考えるというか、自分の感覚を、手を通して作品にする。そういう風に手探りでやるとできるんです。それで手がつくるとこのサイズになるんです。
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大橋 |
小さくても力がありますね、凝縮した感じで。
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出和 |
これまで大きな作品と小さな作品を交互につくってきたんです。
ずっと大きなものに没頭してやると、次に緻密な作業をやりたくなるんです。
大きな作品は全体のイメージを持って作品にしてきたのですが、小さな作品はスケッチブックに断片を描きます。美しい断片が集積すると全体の形態が美しくなるという考え方でつくっています。
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大橋 |
紙のブロック・メモを開いていくようなムーブメントや、さざなみや雲や自然を感じさせるリズムがありますね。
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出和 |
そうなんです。日々の自分のリズムと作品のリズム。たとえば自分の心臓の鼓動とか。そうしたリズムは作品をつくる時に自分にとって大事なものだと思います。
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大橋 |
小さな作品には一個の命が動き始めたような印象があります。白い作品だから陰影
の加減でも動きを感じます。
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出和 |
大きな作品は自分を癒すためと言うか、光や風をイメージしているので、没頭してその中に身を浸すようにしながらつくる。それ自体が自分を癒す装置なのだと思います。小さな作品は手の中から自然に出てくるので、これはたぶん、自分の中の結晶というか、コアな部分が出ているのではないかと思っています。
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大橋 |
自分がつくりたいものがつくれるようになってきているんですね。先ほど黒色の作品がありましたが、これからも、いつか色がついていく予感はありますか。
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出和 |
あまりないです。昔は黒色を使ったんですけど、暗い感じは陰影を使えば、光の具合で出るので黒色は必要がないように思って。
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大橋 |
白色だけでつくる人を見ると、いつか変わる時があるのだろうかと想像するんですが。白の与える純粋さみたいなものが、辛い時もあるんじゃないかなと思うんです。
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出和 |
実は、私が学部でこうした作品をつくり始めた時期と、父が亡くなった時期が同時期だったんです。その時、薄い白磁器に光が通された様が、生命が吹き込まれたようにリンクして見えた。そこから始まったんです。それで色は今のところ考えていないんです。
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大橋 |
それは大変でしたね。
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出和 |
何とも言えません。ショックなのと白磁に光が通って見えたのと同時期だったので、なおさら惹かれました。だから光にこだわっているというか、続けて来たんだろうなと思います。顔料や釉薬はあまりやりたくなくて、土自体の焼き締まった感じが好きなんです。
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大橋 |
出和さんは将来もずっと作品をつくれそうな気がしますね。
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出和 |
本当ですか。
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大橋 |
先程も大きな作品のところで、つくることが癒しになっていると言っていたので、それも作家気質なんじゃないかと思います。
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出和 |
没頭している間は、空想の世界に浸ったり、悶々としながらつくり続けているので、それが今の私の全てですね。つくり方よりも意味ですね。人の心を動かせるものをつくりたいなと思いながらつくっています。
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大橋 |
技術的なことですけど、焼成してから貼り付けるのですか。
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出和 |
そうです。高温焼成ではへたってしまうので、焼き上がってから構成します。ピースを後から組み立てるので、当初はかたちが決まっていないんです。
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大橋 |
かたちに円形が多いのは。
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出和 |
自然の中のもの、生き物や実や微生物のようなものをイメージしている。フォルムの美しいものが好きです。私はマンタとかエイなどのフォルムや質感がすごく好きですね。骨や北欧の磁器も好きです。独特のフォルムがあると思います。
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大橋 |
きっと清らかな展覧会になると思います。楽しみにしています。
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