2009年8月6日 インタビュー:大橋恵美 (INAX文化推進部)
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大橋 |
今展は修了展で拝見した「イムヌス」シリーズになりますか。
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根本 |
はい、それを元にしたものになります。こうした作品をつくったのは、「ブヨブヨとした洞窟」からなんです。
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大橋 |
「ブヨブヨとした洞窟」は壺だったんですね。高さが120cm位あって、生きものみたいな印象でした
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根本 |
1個目は器的な感覚でつくったんですけど、でも2個目の時になんとなくミニチュアをつくってみて、繋ぎ合せてみたら足みたいに見えたんです。それならと4個つくった時に、初めて動物のかたちのイメージが湧いて、動物みたいなものの1匹目が出来ました。
その後、卒展では壺以外の違うものをつくりたいと思い、色々試していたら、なんだか全体が舞台設置みたいに見えて来たんです。その中で、登場人物とか舞台のワンシーンをつくるようなイメージが沸いてきて、そこで「ブヨブヨとした洞窟」に歌ってもらおうと、「歌の聞こえる洞窟」というものを考えました。
知り合いの方に協力して頂いて女声と男声の歌声を収録し、それを流したインスタレーションを考え、そんな風にパーツとパーツが揃っていって全体としての作品が出来たんです。
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大橋 |
タイトルの「イムヌス」はどういう意味ですか。
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根本 |
つくっている時には知らない言葉だったんですけど、男性にはグレゴリア聖歌を歌ってもらっていたので、そこから何曲か選んでいたら、なんだか気になる曲名があって、それが「イムヌス」で、タイトルにしたんです。調べてみたら「賛歌」という意味だった。
制作する始めの頃は、そんなに歌そのものに執着するつもりはなかったのですが、以前壺をつくっている時に、よくラジオを聴きながらやっていて、壺の頭のぽっかり開いているところに手を入れて内側を整えていると、頭が壺にくっついて、耳元に音がびっくりするほど響いてくるんですね。お風呂場にいるみたいで。それがいいな、安心する雰囲気が出せるのではないかなと思って、いつかそれをやりたいと思っていたんです。
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大橋 |
神話の中の動物名とか、造語みたいな神秘的な音にも聞こえますよね。それは根本さんの作品の印象もあるのかもしれない。グレゴリオ聖歌の1部であると知ると、教会で人の声が響く感じとか、荘厳な雰囲気とかを連想します。
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根本 |
そう言って頂けるとなんだか嬉しいです。そちらがメインで、動物たちがそれを聞いて歌っているような感じになればいいなと思っていました。
私にとって音楽は重要で、長い間吹奏楽をやっていた影響もあると思うんですけど、表現となると未だその感覚が切り離せない。そこの答えがまだ出ていないので、もう少し探ってみたいです。上手くは言えないんですが、陶の作品でも音楽が聞こえてくるような作品をつくりたいんだと思います。
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大橋 |
4年生(2007年)の作品に陶のスピーカーのインスタレーション「晴れ ときどき 音」というのがありますね。
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根本 |
これは触れられる作品で、スピーカーを抱っこして聞いてもらう作品なんです。
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大橋 |
音の振動までも体感する。根本さんの音楽へのオマージュみたいな作品ですね。
その時に音楽の内容は気になったりしませんか。
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根本 |
女の人が淡々と歌っている、あまり知られていなさそうな音楽を選んでいるんですけど、確かに気になる人はいると思います。この時も未だそこまで、陶と音楽の均衡みたいなことは考えていませんでした。
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大橋 |
でも作品の中でも、直接的なスピーカーのかたちからBGM的扱いへと音楽とのかかわり方がやや変わってきている気がします。それは陶芸の技術を習得していくうちに、根本さんの中で陶の世界が広がってきているからでしょうか。
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根本 |
確かに陶の表現みたいなところは変化したと思います。スピーカーという「モノ」では物足りなくなっていて、その場の持つ雰囲気に全体に興味を持つようになった。インスタレーションの方がやりたいことをストレートに表せると思うようになりました。
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大橋 |
「イムヌス」の動物のかたちは犬や豚が合体しているようですね
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根本 |
抽象過ぎるとつまらないと思ったので、動物図鑑みたいなものを見て、どこかで見たことのあるような具象を取り込むようにしてつくったからかもしれません。
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大橋 |
動物はお好きですか。
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根本 |
過剰に好きっていう意識はないです。でも実家にシーズーがいるんですが、小さな頃から飼っていて、もうすごく歳をとって、糖尿病で眼も両方潰れちゃったおばあちゃん犬なんです。それって影響しているかなと思います。
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大橋 |
でも、そうなる前の元気に一緒に遊んでいた時間の方が長いわけですよね。
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根本 |
そうですけど、目が見えなくても彼女は普段と変わらずに生活を送っていて、それがたくましくて魅力的なんです。なので最近の方が妙に愛しい。
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大橋 |
「イムヌス」の動物には愛らしさだけではない、大人っぽいイメージがあります。
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根本 |
上手くは言えないんですが、犬や動物、人もそうなんですけど、私が魅力を感じるのは、ただ可愛いだけではなくて、どこかセクシーさがあるなって。例えば、赤ちゃんの持つ独特の魅力は、きっとセクシーさなんじゃないかって。生きていくのに欠点になってしまう弱々しい部分、見苦しい事を、ついしてしまう行動にも同じようなセクシーさがあると思ったんです。もしかしたら、そういった部分からかもしれません。
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大橋 |
人間の生臭さみたいなものが、かえって命の輝きに通じるのでしょうね。
「イムヌス」の冷蔵庫の中の「腐乱しかけたチキン」もそうですか。
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根本 |
あれは少し違ったもので、もうひとつの物語なんです。冷蔵庫には人工的な匂いがあり、冷気を発しています。そこにチキンが入っている。つまり、もう一つの人工的な洞窟を表している。あのチキンは一見毒々しいようですが、そのことによって普段見慣れた光景が違って映る、そういう違和感が生まれて良かったと思います。
製作中には自分でもわからないのですが、後から考えると、やはり見たことのないものを見たい、得体の知れないものをつくりたいんだと思います。
実はこれらの作品を、置く所がなくて家の玄関に置いていたので、宅配便の人にこれはなんだと言われるんです。
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大橋 |
それはそう言われたいから置いているところはありませんか。自分も驚きたい、人も驚かせたいと。
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根本 |
それはきっとありますね。学校ではあまり外の人に見られる機会もなかったので、教室で作業が進んで友達に驚かれたりすると栄養剤になっていた気がするので。
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大橋 |
どうして陶芸へ進まれたのでしょう。
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根本 |
土の自由に動くのに魅せられたんだと思います。
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大橋 |
焼成がありますよね。
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根本 |
未だ焼成について自分の考えを持っていないんですが、ただ6年やってみて、最後に窯にまかせるというのはすごく自然なことだと感じています。気が楽なのかもしれないですね。どうしてここにひびが入ったのかとか、自分で予測出来ない事が起って、良い意味で期待を裏切ってくれるところが好きなんです。ただ、今は粘土のままの生な状態の方に魅力を感じています。
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大橋 |
今展でも驚かせたい構成になりますか。
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根本 |
驚かせられる構成にできたら最高ですね。
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