2009年3月10日 インタビュー:大橋恵美 (INAX文化推進部)
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大橋 |
塙さんの作品は金色でランドスケープみたいなかたちが、桃源郷や須弥山みたいな
ものを連想します。
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塙 |
そういうものが好きなんです。新作の一つは瀧のイメージです。柳など木の枝が下がっていたり、水が落ちる様子が好きなので。タイトルは「垂水」で、瀧の印象と気配みたいなものが自分の中にあって、それをイメージしています。
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大橋 |
トップが丸いのが頭みたいで、長い髪の毛が広がったように見えて、生なましいですね。仏具を感じさせるところもある。
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塙 |
子供の頃からお寺の本堂のつくりとか、上から下がっているものとか、装飾的で異空間な感じがすごく好きだったんです。左右対称な室礼とか。
一時、土の味わいを生かしたものもつくったんですけど、今展で何がつくりたいのかじっくり考えた時に再び金色になりました。土だからこそできる味わいを生かした表現もまた研究はしていきたいのですが。
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大橋 |
表面から中身にシフトしたということですか。
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塙 |
そういうことですね。
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大橋 |
以前のシャープな作品は土でなくても良かったのではないですか。
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塙 |
未だ土との関わりは難しくて考えていないんです。
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大橋 |
お寺の飾り物はほぼ金属で出来ていますよね。金属で造型することは考えなかったんですか。
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塙 |
私が最初に土に行ったきっかけは地元が窯業地に近いからだったんです。だんだん制作を続けているうちに金色になったのですが、土の柔らかさ、温かさみたいなものは金彩で仕上げても出ます。金属の技法でもそうしたものはあるのかもしれませんが、私はやはり土ですね。
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大橋 |
土でも初めから金彩だったんですか。
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塙 |
そうです。今までにないもの、自分にしかできない表現を求めて金色の陶をつくってみようと思いました。宗教美術が昔から好きだったからでしょうか。仏教に関わらず、他の様々な宗教美術も興味があります。
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大橋 |
一部屋全部金色で埋め尽くされた塙展というのも見てみたい気がしますね。
でも作品は1点ずつ独立しているんですよね。
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塙 |
ひとつひとつ表現したい世界を追及していて、1点ごとに完結したいんです。そのため
に1点をつくるのに時間がかかります。
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大橋 |
「棲みか」という作品では大小の作品が連なっていますが、最初からこれは1点の作品としてつくるのですか。
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塙 |
そうです。「垂水」も1点ですが、瀧の具体的なかたちだけでなく、その気配までイメージとして立体に表わすのは本当に難しいですね。
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大橋 |
制作を始めてどの位になりますか。
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塙 |
独立して10年です。あっと言う間で、そんなに時間がたった感じはしないですが。
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大橋 |
塙さんの作品は誰にも似ていないと思いました。
でも、写真と実作品にはギャップがありますね。もっとパノラマティックなものを想像していましたが、意外と小さいですね。あと襞や線の凹凸が特徴的ですね。
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塙 |
作品のつくり方は彫ったり、粘土をつけたりしてつくります。最初にスケッチを描い
てかたちを決めてからつくります。途中で変わったりはしますが。
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大橋 |
最近「ガレリアセラミカ」では大作が多いので、逆に陶には人が手で抱えられる大きさというのもあったなと思い出しました。器ではないけれど、塙さんには土で、掌でできるものという感覚があるのかなと思います。
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塙 |
ここになるまでには私も色々あったんです。陶を始めた時は、どうしても大きなものをつくりたかったし、オブジェだったら余計そういう方向へ行きたいですよね。でも実際には自分ひとりではつくれない。だったら、小さくても1点を完璧にしたいと思ったんです。それに古美術に興味があって、自分の身近に置いたり、愛でたりと、身の回りで楽しむものの大きさというか、そういうものをつくりたいという感覚もあります。
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大橋 |
それは大きさだけでなく、古美術の価値というか、残されてきたものの基準ということもありますよね。
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塙 |
いえ、自分でコントロールできる大きさというのが1番先にあるのかもしれないです。
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大橋 |
須弥山みたいな、ある種宇宙的なスケールの世界をつくるにあたって、今の大きさでも充分だということですか。
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塙 |
表現的に大きい方が良いのであれば、大きいものをつくりますが、今は私の中では、これがベストかなと思っています。
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大橋 |
塙さんの作品が3m位あったら、土の作品だとは思わないかもしれないですね。
毎日たくさん土を使っていますか。
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塙 |
展覧会が決まってからは、毎日休みなく制作しています。ある一点の制作を始めたら最後までいきます。細工というか削って装飾を出すのに時間がかかります。「一弁(ひとひら)」等、削りながら花びらの様なものを少しくっつけたり、全体をつくる時間は少しで、細工の部分が長い。
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大橋 |
つくっている時は土色なわけですが、頭の中では金色の世界が完成しているんですか。
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塙 |
それはないです。素焼きが終って釉薬掛けの最後の最後に色は決めます。最初は金のベタ塗りでしたが、今は陰影をつけています。グラデーションや、下の釉薬が見えるよう
にサンドペーパーで削ったりもしています。まだらの釉薬をかけた上に金を掛けると、変わったような感じや、剥がれ落ちた感じにもなるんです。剥げ落ちた仏像の掌のように。
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大橋 |
それはちょっと危ないですよね。今それをやってしまうと、次が難しくなりません
か。
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塙 |
そうなんです。古美術に惹かれるのはいいんですが、自分の表現として今生み出しているのに、どうなんだろうと思います。真似して、古めかしくつくってどうするんだろうという疑問もあるんです。
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大橋 |
例えば「ガレリアセラミカ」1月の高岡さんの作品は、古色っぽい表情がついている
し、藁苞のような古めかしい表情をそのまま取り入れていましたが、でもやっぱり現代に生きる若い人の作品であることが感じられます。古色に惹かれて表現に使うのであれば、そういう部分を出さなければいけないのではないでしょうか。塙さんのような若い方が仏壇に惹かれるというのもめずらしいのではないですか
。
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塙 |
小さい頃から自然に惹かれていたんですね。祖母が一緒に住んでいてすごく先祖を大切にしています。今も小さな姪も自然に拝むような。段々がある拝殿のようなものが好きなのかもしれないです。自分の部屋に何か飾る時も仏壇チックになるし、展覧会の展示も奥に祭壇みたいなものができてしまうんです。展示は今回、すごく悩んでいます。
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大橋 |
塙さんはちがう分野から陶芸へ移られたんですよね。
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塙 |
短大ではインテリアデザインも学んだのですが、本格的ではなかった。母が食器が好きだったので、笠間の陶器祭によく一緒に行っていたんです。皆が就職活動を始めた頃に、笠間の先生につくことを考え始めました。私は最初食器がつくりたくて、お弟子さんを採っている所を探したのですが、なかなか決まらなくて。その時にお会いしたことのないオブジェ作家の方の個展の案内が来たんです。その方に師事することになった。後に師匠もなぜその時に私に案内を出したのかわからないと、本当に偶然の出会いだった。師匠の所には2年少しいました。ロクロも好きだったんですが、でもこれじゃないなと思った。それから今の作品になりました。
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大橋 |
東京で初めての個展ですね。会場全体がきらめいているさまが浮かんできます。楽しみにしています。
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