2008年9月16日 インタビュー:入澤ユカ(INAXギャラリー顧問)
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入澤 |
大阪芸大博士課程を終ってから、金沢の卯辰山工房へ行こうと思ったのはなぜですか。
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矢本 |
制作場所を求めて行きました。器の勉強もしたいと思っていたので。両立するのは難しいですが、今は造形と器の両方を制作しています。
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入澤 |
そういう方はたくさんいらっしゃいますが、どちらが大事ですか。
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矢本 |
どちらかと言うと造形することが一番ですけど、器には使えるものという制約があるので、造形の時とは違う思考でものづくりをしてみたかったんです。
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入澤 |
矢本さんの器って、どんな器ですか。
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矢本 |
鋳込みで、色泥しょうを何層も入れて、削って、色の層を見せたシンプルなかたちにしていこうと考えて制作しています。まだ実験段階ですが。
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入澤 |
なんでもやりたいし、出来るしというところでしょうか。造形にも用途はあるんですよね。
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矢本 |
もちろん芸術として、見る人の視覚や触覚に訴えかける鑑賞としての機能はあると思います。
私は陶芸で作品をつくっている意識はありますが、現代美術などジャンル分けはないと思っています。これから作品発表の場を広げていきたいと考えています。
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入澤 |
作品の出来た順番を教えてください。
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矢本 |
2007年の朝日陶芸展の作品「A trace of life」が一番初めです。その後が2008年の卒業制作の「New Biotechnology」になります。
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入澤 |
朝日陶芸展のすぐ次の作品「New Biotechnology」の中の「The expand」は、似たかたちをしていますよね。その後になると車輪のような渦巻きのような作品になってくる。この作品のタイトルはなんですか。
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矢本 |
「Absorber吸引装置」
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入澤 |
何を吸引するんでしょうか。
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矢本 |
展示する空間の空気や見る人の視覚です。渦巻いて中に取り込んでいく感じで、真ん中に全てが集まるイメージです。
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入澤 |
タイトルは、つくってしまったものを見て、後から観念的に名前をつけているのではないですか。
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矢本 |
私は造形のイメージがあって、生命体の構造と人工的な幾何学形態の融合というイメージで作品づくりをしています。意識しなくても、自然に自分の求めている形態が出来てくる感じなんです。
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入澤 |
お話を聞いていると、卒展の4点を関連づけて、展覧会をするためのタイトルになっていて、タイトルによって作品がぎこちなくなっているような気がします。
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矢本 |
タイトルを決めるのはすごく難しくて、できれば無くても良いと思っているんですけど、
無いと作品が弱くなってしまう気がして、主題の「New Biotechnology」の副題として、その後に続くイメージはこんな感じですよと。
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入澤 |
私たちは、色やかたちで作品を記憶するんですが、例えば矢本さんだと「枯れたひまわり」とか「貝殻タービン」のように呼んだりするんですが、矢本さんのタイトルは難解な大展覧会のタイトルみたいに思いました。
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矢本 |
それでも日本語より英語の方が、ぼやけるかなとは思っているんですけど。
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入澤 |
ゆるやかな波のような作品「stretch out」は、いつ頃のものですか。
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矢本 |
この頃は自分の求める造形が分からなくて、いろいろ模索しているうちに生まれてきた感じでした。これが出来てから、自分は生命体と幾何学を組み合わせたこれが好きだとわかったんですけど、いろんな人にこれだけでやっていくのと言われて悩んで出来た作品です。
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入澤 |
まだ若くて作品も多くないのに、ひとつがせっかくリアルになりかかっているのに、すぐ違うかたちをやると、何かのヴァリエーションになってしまいますよ。今、自分でこの作品を見てどうですか。
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矢本 |
不思議な感じですね。今、見ると恥ずかしいですね。
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入澤 |
矢本さんは、自分自身の筋書きをきっちりさせたいところがあるのではないですか。
例えば私だったら、この作品はこの作品ファイルから外すと思うんです。
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矢本 |
でもこれは私のキーポイントなんです。作品ファイルにはどうかと思いますが、生かされている部分があって、これがなければ、ずっと同じ緑青だけで、いつか行き詰まると思うんです。次の展開をしていこうと思った時に、この時に釉薬のテストも色々できたことを今後に生かしていきたいと思っています。
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入澤 |
新作はどのような作品ですか。
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矢本 |
今、二つ焼いているところです。車輪が二つ合わさっているようなかたちと、小さめの有機的な作品です。
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入澤 |
矢本さんは、これまでにつくった作品数が少ないですよね。理由にはかたちが難しいとか色々あると思うんですけど、もうひとつは考え過ぎではないですか。良くも悪くも冷静ですよね。
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矢本 |
そうですね。私はつくっていて結構大きくなってくると、絶対成功させたいと思うんです。簡単なマケットをつくって、全体のイメージを掴んでからつくり出すので、手びねりの一瞬一瞬の積み上げる行為の中で模索しながら、気に入らないとその部分を切り捨ててつくり直しています。考えることを楽しみながらつくっています。
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入澤 |
もう少し考えないでつくってみたら、違うフェロモンがでてきそうな気がします。今の作品は、意図しながらさらに考えている。考え過ぎている。実は、拝見した作品の5倍位はつくっているのではないかと思っていたら、数点だけだった。
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矢本 |
つくっている時は、無意識に考えているので、どうしようもないですね。
同期の村田佳穂さんとは机を並べて朝9時から夜10時までつくっていたのですが、彼女は増殖していくようにつくるタイプでした。卒業の頃には自分のかたちが決まって来ていたので、それこそ本能の赴くままにつくっていて、それはすごいエネルギーだと思いました。
その制作スタイルは励みになりました。私は大学院に行っても自分のしっかりした作品が出来なかったら、制作をすべて止めようと思っていました。そういう気持ちで制作しないと出来ないだろうと思っていました。なんとかかたちが出来始めたので、ほっとしました。まだまだだとは思うんですけど。
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入澤 |
先生はどなたですか。
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矢本 |
田島悦子先生と大学院の時に柳原睦夫先生に少し見て頂きました。ギャラリー白で個展をした際に柳原先生に来て頂いて、色を駆使した作品2点と朝日陶芸展の作品の3点を見て、本当にやりたいことはこの作品のここの部分なんだろうね、と言われて、その通りだったので、先生から見てもそう見えるんだと衝かれました。
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入澤 |
矢本さんは陶芸ジャンルだけではなく、現代美術の中でも発表したいとおっしゃっていましたが、それはどんな意味ですか。
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矢本 |
使っている素材は土なんですけど、発表の場として、陶芸のコンペなどだけでなく、現代美術を取り扱っているギャラリーやコンペでも発表していきたいという気持ちです。
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入澤 |
陶芸と美術の発表の場には違いがありますか。
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矢本 |
私の勝手な思い込みですが、陶芸は作品を見せる場ですが、現代美術で陶芸作品を見せるなら、インスタレーションという空間を意識して見せるという感じなので、やってみたいと思っているんです。でも現代美術とは言いましたが、まずは作品自体に力がないと駄目ですね。
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入澤 |
展覧会では新しい作品を見せて頂くことと、伸びやかな展示になることを期待しています。
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