2008年2月10日 インタビュー:大橋恵美(INAX文化推進部)
|
|
大橋 |
今日は金沢美大の博士課程修了展を拝見しました。これで学校生活も終わりですね。
|
|
宮永 |
そうです。この後は金沢出身なので実家で制作を続けるつもりです。
|
|
大橋 |
今回、作品が変わられましたね。以前は内と外や、メビウスみたいなものがテーマのようでしたが。
|
|
宮永 |
そうですね。つくり方と形態の結びつきが私のテーマで、どんどん変わっています。今回は紙紐を躯体に使っています。
紙だと表面が毛羽立たないのできれいにできるんです。「虚(そら)と骨」という作品も紙と粘土で制作しています。まず針金で形態をつくって、その上に紙を巻いてホース状のものをつくり、さらに紙紐を巻き付けてジャバラみたいなかたちを出し、粘土を組み合わせてジャバラみたいな部分を写しとります。
ジャバラはつくっている段階では見えなくて、窯から出た時に見て、その驚きから始まりました。粘土は収縮するので、しないものと組み合わせると妨げになってひびが入ることがよくあります。このシリーズではひびが入らないかたちをつくりたかったんです。針金に紙を巻くと、粘土を付ける場所は決まってくるんですね。必然的にかたちが決まります。
|
|
|
大橋 |
便宜上ホースと呼びますが、ホースで出来るかたちはだいたい決まっていると思うんです。そうするとホースをつくる段階で、つくりたいかたちにつくるわけですね。
|
|
宮永 |
そうです。
|
|
|
大橋 |
表面が黒っぽい作品と白っぽい作品がありますが。
|
|
宮永 |
黒っぽいのは、紙が燃えた時の炭素が粘土に吸着している状態で、白っぽいのは温度が高くて炭素がすべて抜け切ったものです。焼成温度が倍位違うんです。
|
|
大橋 |
「虚と骨」というタイトルですが、出来てから骨を意識したのですか。
|
|
宮永 |
出来てからです。「虚と実」のようだとか、骨のようだと言われることが多くて、後から「虚と実」の「実」の部分は骨なのかなと思って、置き換えてつけました。
|
|
大橋 |
ご自分では作品の色はどちらが良かったのですか。
|
|
宮永 |
一回窯が壊れて、すごく低い温度で焼けて黒くなったんです。それが面白いなと思って。
|
|
|
大橋 |
黒とグレー、白とグレーのコントラストの作品はすごく新鮮でした。段々かたちも自在になって来ているようですね。
|
|
宮永 |
私、飽き性というか、同じことをずっと続けるとか、その中で突き詰めるというのができないんです。やり尽したら戻る、展開するという可能性もあると思うんですけど、今は目の前にあるものをどんどんやりたい。
|
|
大橋 |
「虚と骨」の次に「Gathering」ができてきますが、これは随分大きな作品ですね。
|
|
宮永 |
ちょっとつくり方を変えてみたんです。それまでは針金を芯にしていたのを、紐を結んでネット状にしてそれに紙を巻いているんです。うねうねとしたかたちが出来るのでその形態が良いと思って。
|
|
大橋 |
これは骨というより生きもののようです。
|
|
宮永 |
これをつくった時に言われたのが、一部が壊れながらも根を張った生命感みたいなものがあると。それは確かだなと。つくった後からですけど。
|
|
大橋 |
欠けたことで表情が増えて魅力が増した感じです。
|
|
宮永 |
この後が「Binary unit」。これは、かたちが全然違いますが原点は「虚(そら)と骨」にあります。窯から出した時に、紙が燃えた灰が残るので、それを取り除く作業が必要となる。それが新しいものを発見、発掘するような感じなんですね。その時に粉を使おうと思いついた。焼いて溶ける物質と、焼いても溶けない物質があって、配合して焼いてみたら柔らかい塊になると思って。今になってみるとそういうことをされている方っていっぱいいらして、まねしたみたいなんですけど。つくる中で最初の意図とは違った面白さが出てきた。
|
|
|
大橋 |
発掘という発想は楽しいですね。土をキューブに切り取ったかたちも土の断層のようです。
|
|
宮永 |
それは焼く前は粉の状態なので型をつくらなければならない。まず、つくりやすいかたちだった。中に入れるものが有機的なので、それとの対比を見せることはできるだろうと思いました。
|
|
大橋 |
球体で始まった人が、途中で四角くなることは少ないと思いますし、キューブは宮永さん自身が意識してつくるかたちより強いです。
この後、金沢21世紀美術館の「珪藻土のプロジェクト」を拝見したわけですが、宮永さんにとって大変な仕事ではありませんでしたか。
|
|
宮永 |
大変でした。作品自体は楽しくつくれましたが、ぽわっとした学生だったのに、美術館の現場にぽいっと入れられて。すごく勉強になりました。本当に厳しい所は先生方がされましたが、そういう現場に入れたことは良かった。
|
|
大橋 |
「珪藻土プロジェクト」では何人かの作家が舞台となる部分を制作して、その上でダンスや芝居が上演されたわけですが、展示プランというのはどのように決められたのですか。
|
|
宮永 |
パフォーマンス担当の藤枝守先生が舞台のイメージを提案し、伊藤公象先生や久世建二先生がそれを受けてインスタレーションのプランが決まりました。舞台周囲の「層」と言っていたんですけど、その部分を各々が分担したんです。各々が10案位提案して、そこから先生方が宮永のはこれと選ばれた。終わった後は、自然物だけの廃棄物を土に戻す会社があるのでそこに引き取ってもらいました。
|
|
大橋 |
私達も偶然でしたが遭遇できて、それまで知っていた宮永さんの魅力が開花した気がしました。今展の作品はどのようになりますか。
|
|
宮永 |
2006年の村松画廊の個展では、会場に色々な要素の作品を展示し過ぎたと思いました。
|
|
大橋 |
これまでの集約みたいなつもりで入れたのですか。
|
|
宮永 |
それぞれの作品が、私の中では変わっていないのに、見え方も与える印象も違うと言われました。それでひとつひとつの作品が、どういう印象を与えるのか考えるようになりました。大橋:宮永さんは、無意識につくっているものを、人に言われてから検証していませんか。
宮永:そうですね、でも聞きたくなっちゃうんです。人から言われることもそうですが、完成した自分の作品から、最初の意図とは異なる印象を受けて、そのイメージを次の作品に繋げていくことで制作を展開させています。今回は結び目の作品に原点があります。
|
|
大橋 |
それで今展では紙紐でつくった作品になるんですね。
|
|
宮永 |
はい。鈎針で編みました。紙紐を編んで出来たものから、ジュエリーやお守りといった印象を受けたので、それらをコレクションする感覚で編み進めています。
|
|
大橋 |
宮永さんの新しい作品は編みをモチーフにしていますよね。そういう作品はセラミカでは既に2006年に開催しているので、ちょっと困っているんです。宮永さんもまだ変わり始めたばかりだから、質量とももっと変わる気がしていますが。
|
|
宮永 |
そうですか。学部から作品を見てくださっている先生がいて、その先生からも新しい作品は大分これまでとは違う受け取られ方をすると思うから、覚悟しておいた方が良いよって言われています。
|
|
大橋 |
(笑)。新しい作品に宮永さんらしさが出るといいですね。
|