2007年5月11日 インタビュー:入澤ユカ(INAXギャラリーチーフディレクター)
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入澤 |
本郷さんとは京都造形大学の卒業制作の講評で出会いました。
でも卒業制作の作品ではなくて、ぜひ見て欲しい作品があると言われて見に行ったのが、この作品でした。で、こっちならば面白い、展覧会をやりたいと思ったのですが、どうして卒業制作の作品はこれではなかったのですか。 |
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本郷 |
時期的な問題で、この作品はちょっと前に偶然発見したような感じだったので。
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入澤 |
ろんな展覧会を長年やっていると、偶然のような事態をどう捕まえられるかもその人のすぐれた能力だと思うんです。自分が意識的にやったわけではないところでためらいがあったんですか。 |
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本郷 |
それもあるし、卒業制作の計画書を出すのが7月だったので、その時にはこれはまだ生まれていなくて、卒制の作品をつくり終わった後に、この作品ができたんです。
卒制としてもう黒陶の作品をエントリーしていて変えれなかったし、自分の中でも卒制として意気込んでつくったのはあちらの作品だったので、また他の機会に出せば良いという周囲からのアドバイスもありましたし。
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入澤 |
私がこの作品だったら展覧会をしたいと言った時に、あなたはどう思ったんですか。
本郷:自分で貸し画廊を借りて、準備をしてやらなければならないと思っていたところだったので、本当に嬉しかった。
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本郷 |
そうですね。 |
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入澤 |
この作品が偶然生まれた経緯ですが、乾かす時に巻いていた布をそのまま焼いたら、布の模様が出てしまったということですね。一番最初の柄はどんなだったんですか。
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本郷 |
お花の模様。
この作品は、もともとは自然物の羊歯や南天の実を泥しょうに含ませて焼くという作品で、
羊歯の葉で角をつくろうとしていたんですよ。全部のかたちをつくるのは無理なので、新聞紙でかたちをつくって、そこに羊歯を絡ませた泥しょうをかけて焼いたところ、布を敷いた底の部分がこうなっていたんです。ひっくり返した時に、これだと。びっくりしましたよ。よく見たらあの布の柄で、あぁ、ついちゃったぁーみたいな。いつも下に布を敷くのが当たり前の工程だったので、ただの布だったし、泥しょうだからとれないからそのまま焼いちゃっただけで。
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入澤 |
私は卒業制作で、誰か展覧会をしたい人が見つかるかも知れないと思って講評を引き受けたんですが、番外で見たあなたのこれが、一番面白いと思った。ボディとはまったく趣が違う模様がついているのにびっくりした。 |
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本郷 |
この作品が生まれた時は、陶芸を始めて、初めて本焼きの窯を開けた瞬間のドキドキ感というか、ハッとさせられた感じと同じ感覚で。嬉しさの方が大きかったです。
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入澤 |
本郷さんの作品は結果的に転写なんですけど、意識的になったときに上手くいかなったのではないですか。 |
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本郷 |
いろいろやったんですけど、きれいに整い過ぎていたり、違和感があったりとか、そういうのを排除しています。未完成なんですけど。それはナチュラルな最初のが一番良いですね。
布と模様は、最初は偶然あったもので、その後いろいろな布を買ってきました。でも、選ぶことはできないんです。焼いて生地に輪郭が残るシルクスクリーンでプリントされている布は種類がすごく少ないんです。それがお店にあった時はとりあえず買い占める。今、京都のお店にある限りの5点と名古屋にきてあった5点だけの10点です。
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入澤 |
布の模様は大量生産時代の流行とか時代の空気を表していて、それが窯の中で火によって、あなたのつくったかたちに自然に貼り付いたみたいな感じが私は面白いと思います。私は若い作家のつくった作品の順番を当てられちゃうんですね。それは、恩寵のようにやってきたものの場合、最初は大いなる何かのエネルギーに溢れているんですが、いざ自分の力でやろうとすると、なんだかしょぼんとしてしまうんですよね。あなたはこの半円の内側のものをつくろうとしたのに、そこに偶然降ってきたような不思議な模様が生まれた。
多分人間がつくるということはおこがましくて、ものはつくるのではなくて、つくらされるような、あっちからかたちにしてくれる時まで、一生懸命やらないといけないんだと思いますね。
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本郷 |
フトしたことで失敗が成功に。何がどう転んで作品になるのかわからない。でやっただけのことはあるのかなと。私は相当無茶をして窯とか焚いているんですよ。 |
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入澤 |
卒制も2mくらいの大きさがあって、本当は3mくらいのものをつくりたかったそうですね。本郷さんは無茶でもやりたんだというところがいいですね。
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本郷 |
いつもやりたさを優先させてきました。
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入澤 |
今年入学した、多治見の意匠研究所の審査の時は先生に何か言われましたか。
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本郷 |
面接の際、見せたポートフォリオの内容が、主に型を使った作品が多かったので、なにかデザインの方が向いているようにとられたようで、デザインに入ったのですが。
実際にはそれで良かったなと思っています。カリキュラムが、技術とデザインが半分半分で、技術は主にロクロ、デザインは石膏、鋳込みに分かれているんです。京都造形大の八木明先生の時がロクロだったのでだぶるので、デザインで勉強していないことがやれて良かったんです。
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入澤 |
大学で学んだことでどんなことが印象に残っていますか。
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本郷 | 陶芸に関しては今の自分は大学の4年間にあると思うし、本当に自由にできたこと、大物の先生方に貴重なまでにも囲まれて意見を聞ける、他愛もない会話をしつつ制作できたということです。
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入澤 |
高校時代から土には触っていたのですか。
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本郷 |
それが全く。陶芸に来たきっかけは浪人の時に、マルスの石膏像の模刻を粘土でやったことで、その時に粘土がすっごく気持ち良くて。それまではデザイン志望だったのですが、私はパソコンや筆を使ってものを表現するのではなくて、手を実際に使って、触ってつくるのが好きなんだと実感して、そこから工芸に進路を変更したんです。
最初は染色でも漆でも良かったんですが、でもなぜだか陶芸を選んだんですよ。京都造形大は3年生から変更ができるんで、とりあえず陶芸から始めようと。でも半年後には自分は陶芸だと決まっちゃっていました。
やきものは窯を開けてみないとわからないところがあって、開けてみると上手く行っていなくて、結構へこむこともあるんですけど。そうなりつつも、そういうサプライズ的なところが、自分の性質にあっているのかと思います。
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入澤 |
初個展でもサプライズがあるといいですね。楽しみにしています。
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