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「日本史を精神分析する 自分を知るための史的唯幻論」

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 私たちが学校で教わる歴史(少なくとも戦後に生まれた私たちが高校生までに教わった歴史)は、日本史にせよ世界史にせよ西洋史観に立った客観的(であるとみなされている)事実の列挙である。疑う余地も判断力もなく、私たちはそれが正しい見方だと教わってきている。
 最早戦後ではないとはいえ、第二次世界大戦の敗戦国である日本が、この世界観に抵抗できる筈はなかった。そして、欧米を中心とした文明が優れて正しいものであるという価値観は、今後もアメリカ文明が崩壊するまで続くだろう。

 しかし歴史は、時間の流れに沿って出来事が次々と生じ、勝手に作られているわけではない。そうではなくて、歴史は人間が作りあげている物語に他ならなず、それをある一つの視点から解釈しているに過ぎない。この自明でありながら、ともすると忘れてしまいそうになる事実を、本書は私たちにしっかりと思い出させ、そして実感させてくれる。

 岸田秀氏は、「人間は本能が壊れた動物であり、幻想や物語にしたがって行動する」と主張し、『ものぐさ精神分析』がベストセラーとなった心理学者、精神分析家である。人間には怒り悲しみ喜びという感情、劣等感やプライド、トラウマがあり、それらに駆り立てられ、私たちは行動する。一つの国とてそれは同様なのである。本書ではこの観点から、建国以来の日本という国と、日本と関わってきた国々の歴史(思惑と行動原理)が分析されている。そして「なぜ今日本がこうなのか」溜飲の下がる答を示してくれる。

 「『なんだ、みんなメチャクチャに生きてきたんだ。だったら私もメチャクチャに生きよう』と読者に思っていただければ、本書の目的は果たされたことになる。」本書の聞き手、ノンフィクションライターの柳澤健氏の言葉以上に、私たちに送られる励ましのエールはないように思う。



日本史を精神分析する 自分を知るための史的唯幻論/岸田秀著・柳澤健(聞き手)/312ページ/亜紀書房/\1,800+税

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