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LIXIL ブックギャラリー お勧めの本 16
「中動態の世界 意志と責任の考古学」

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 第16回小林秀雄賞受賞作品である。
 このような哲学の書が医学書院という医療を専門とする出版社からから出されていることに多少驚かずにはいられないが、1人の依存症患者との対話が発端となってこの本が書かれたと知れば、なるほど、と思う。

 例えば、何かの事件が起きた場合、犯人となる人の精神疾患(精神状態)により責任が問えるのかどうかが話題になっていることはしばしば耳にする。その問題行動を自ら意図して行ったのか、判断能力がなくそうせざるを得ない状態だったのかが問題にされているのだが、何かに依存してしまう、依存症患者の行動にについても、原理は同じである。

 ある行動を自らの意志で行ったのか、何か原因があって強制的にそうされられてしまったのか。そのどちらとも言い難い状態を表現する言葉として、する(能動)、される(受動)以外の態として、「中動態」という概念を著者は示す。この「中動態」を明るみにし、紐解き、根拠を示し、読者を説得していく、その思索の軌跡が本書なのである。

 言語学、ギリシャ語、ラテン語、哲学、文学と、様々な分野にわたる中動態へのアプローチ、微細な研究調査の結果が幾層にも重ねられていく。このような緻密な作業の労を厭わず着実にこなしていく著者の姿勢と筆致には目を見張る。その一つひとつの真摯な思考の軌跡を読者は辿ることになるが、これは、冒頭で提示された謎を解いていく推理小説を読む感覚にも似ている。難解な個所も多いが、著者が道標を常に示してくれるので読者は決して迷子になることはない。

 本書によって示された「中動態」という概念は、意志と責任を問われる現代社会に新たな視点と地平を開き、解決法をもたらす一つの考え方となるかもしれない。しかしまだこの概念は、本書によって提出されたばかり。著者はこの概念を今後更に深め、高めていくのだろうと思う。

中動態の世界 意志と責任の考古学/國分功一郎著/335ページ/医学書院/\2,000+税

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