LIXIL ブックギャラリー お勧めの本 7
「身近な野の花のふしぎ」
事典や図鑑に求めることは何だろう。正確、かつ詳細な情報とそれに関する客観的記述、ではないだろうか。主観を徹底的に排除した客観的事実にこそ、私たちは信頼を寄せる。
ならばどこのだれが編纂しても辞書の類は同じ記述になるのかといえばそうでもない。ちょっとした言葉使いや例文に、編纂者の個性や思想がどうしてもかもし出されてしまう。(故赤瀬川源平が、そのおかしさを「新解さんがいく」で指摘したのであった。)
本書は、分類するなら植物図鑑ということになるのだろう。身近で見かける野の花の正確なイラストと写真、学名、性質や所属科など一通りの情報を教えてくれる。もちろんこれだけで図鑑としての使命は十分に果たしていると言える。
しかし、本書の面白さは、一つひとつの植物に与えられた個性的なコピーと解説にこそある。読み物としても、これほどわくわくできる図鑑は、めったにない。
たとえば、第4章、ツル性植物編に冠された題名は、「熱い抱擁と下心」であり、第2章、帰化植物編U「むかし貴重種、いま雑草」中、ヒメツルソバのコピーは「ヒマラヤの出戻り娘」である。これはもう読むしかないではないか。もちろん解説も期待を裏切らない内容である。
著者の森昭彦氏は、サイエンス・ジャーナリスト。植物についての書籍は、同じシリーズとして「身近な雑草のふしぎ」と「うまい雑草、ヤバイ野草」がある。著者独自のフィールドワークによるユニークな知識の宝庫であり、著者の植物に対する情熱と愛情がにじみ出ている。いずれも魅力的な書籍である。
「身近な野の花のふしぎ」森明彦著/ソフトバンククリエイティブ/952円+税