お知らせ&トピックス


LIXIL ブックギャラリー 新刊案内 9
「ドミトリーともきんす」

tomokinsu.jpg



 科学書が研究を専門としない一般読者の間で流行ることは滅多にない。なぜ敬遠されるかといえば、理解するためにそれなりの専門知識が必要だからだろう。専門用語がわからなければ、日本語を読んでいるというのにまるで外国語並みにチンプンカンプンということも起こりうる。
 わかりやすさ、は科学書が一般的に読まれる上で重要なファクターである。養老孟司や竹内久美子、福岡伸一の著作が流行る理由は、こうした専門知識に明るくなくとも理解できることが大きいのではないだろうか。

 ジョージ・ガモフ著「不思議の国のトムキンス」(1940年)、また、時代に合わせてラッセル・スタナードがこの内容を改定した「不思議宇宙のトムキンス」(2001年)も、決して分かりやすいとはいえないながらも、一般読者に向けて書かれた物理学解説書である。世界で版を重ねるベストセラー。この2冊の書籍の主人公、物理に興味のある銀行員がトムキンスという名前なのである。

 そして、この主人公の名前トムキンスをもじって漫画家・高野文子が描いたのが、ここで紹介する「ドミトリーともきんす」だ。架空の学生寮「ともきんす」を営む寮母・とも子と娘のきん子、4人の学生の会話で織りなされる物語である。
 4人の学生は、朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹という日本を代表する科学者。いうなれば本書はこの4人の科学者の言葉へ導く知的読書案内なのである。
 著者の高野文子は、やさしくリライトしたり絵で説明したりしなくとも、彼らの言葉そのものが魅力的で素晴らしいことを示している。彼らの言葉自体を物語の会話に滑り込ませてあり、読者は科学者たちの文体そのものに直接触れることができる。本書をきっかけに4人の科学者に興味を持ち彼らの著作を手にとる読者がいれば、作者冥利に尽きるのではないだろうか。

 多くの場合、作品を描く時は感情が何よりも先にあるが、本書ではその感情から離れることを考えた、と著者は述べている。そしてその表現のために、変化のない線を描ける製図ペンを使ったそうである。彼女の作品は感情的な激しさは少なめで、むしろ淡々とした流れが魅力なのだが、彼女の独特の世界観と筆致が本書の内容にとても合っているように感じられる。
 「自然科学の本からは涼しい風が吹いている」と彼女が言うように、本書の絵からも、4人の科学者の言葉からもそれを味わうことができる。



「ドミトリーともきんす」高野文子著/中央公論新社/162ページ/1,200円+税

※ 現在ブックギャラリーで開催中の「美しい科学」miniフェアでは、本書で紹介されている4人の科学者の著作、高野文子の作品、その他科学を芸術ととらえる観点から書籍をセレクトしています。是非お立ち寄りください。



ページの先頭へ

LIXIL Link to Good Living

Copyright © LIXIL Corporation. All rights reserved.