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「日記で読む文豪の部屋」

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 文学作品やエッセイ、日記などを読む場合、多くの人はそこに記される作者の考え方や思想を読み取ろうとしているのではないだろうか。文学の研究者であれば、作家の生い立ちや家庭環境、交流した人々との関係から作品を読み解くだろう。歴史学者であれば、その時代背景等から作品を分析、理解していく作業になるだろう。1つの作品に向けられる視線は無数に存在するといえるかもしれない。

 本作品で著者の柏木博氏は、表題の通り、日記に記されている記述から彼らの「部屋」への思いや考え方を読み取ろうと試みている。著者は、家や部屋が「おそらく誰にとっても心身ともに安らぐ居場所」であり、「さまざまなものが集積された立体的コラージュのようなもの」、本人の「痕跡」であり「分身」であると考える。こんな独自の視点から部屋の記述をクローズアップして分析する。文学作品ではなく日記であることの意味は、作品の登場人物ではなく、文豪たち自身の部屋への思いを直接にそこから読み解ける点にある。

 本作品では、夏目漱石、寺田寅彦、内田百閨A永井荷風、宮沢賢治、石川啄木、北原白秋の日記を取り上げている。例えば宮沢賢治の場合、「MEMO FLORAノート」に記されている花壇計画「Tearful eys」から、賢治の代表作品「銀河鉄道の夜」にたびたび記述される「うるむ眼」「涙ぐむ眼」にまで思索が及ぶ。また、絶望的な貧困と放蕩の果てに夭折して部屋を持つことのなかった石川啄木については、啄木が心から希求していたのは「心を安らかにできる家、部屋である」と筆者は述べている。

 筆者自身の独断にも思える推論ではないかと思わせる部分もあるが、独特の視点という意味では他に例のない、非常に興味深い書となっている。家や室内の現場を実際に考察した柏木氏の「わたしの家」(亜紀書房)も一緒にお読みいただくのも面白いだろう。


「日記で読む文豪の部屋」 柏木博著/白水社/252ページ/¥2,200+税

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